阪神時代の伊藤隼太
阪神時代の伊藤隼太

 伊藤隼太(愛媛マンダリンパイレーツ)が野球人生の最終章を迎えようとしている。

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 阪神時代からグラウンド内外で多くの話題を提供、「野球選手らしくない」と評されてきた男。四国へ渡った後は、「野球に決着をつけるためグラウンドに立っている」と語る。何を考え、今後に何を見据えているかを率直に聞いてみた。


●~現実を理解した上で野球に決着をつける。

「現役は今年1年と決めています」

 8月の終わり、愛媛県大洲市開催のホームゲーム試合前だった。残暑厳しい瀬戸内の日差しの中での試合前練習を終え、着替えを済ませた後に穏やかな表情で登場した。いきなりの衝撃的な発言だったが、本人はいつも通り淡々と語り続けた。

「シーズンも残り僅かですが貢献できることも残っています。チーム内で僕ができることをやり、野球人生をしっかり終わらせたいと思います。もちろん野球を続けたい気持ちはあります。でも現実は自分でわかっているので決着をつけたい」

「自分自身が納得して辞める野球選手なんていないと思います。でも、自分の中である程度は満足できる状態にしたい。自分の野球をやり切ったというか、もう良いかな、という状態にしたい。そのために今季は過ごしたいとずっと思っています」

 愛媛に来てからの2年間は野球選手として不本意なシーズンを送っている。アマチュア時代から名前を轟かせ、阪神時代は常にレギュラー候補と言われていた。NPBよりレベルが下がる独立リーグでは、無双の結果を残すことが予想されていた。しかし周囲が考える以上に選手としてのコンディションは悪く、冷静に判断した上での答えだ。

「愛媛1年目の開幕戦でケガをして、シーズンを通してコーチの役割が主になりました。中途半端に野球生活を終わらせたくなかったので現役続行しました。今年は選手としての比重を大きくして臨んでいますが、体調面との兼ね合いで昨年同様コーチの役割が増えている。できる範囲の準備をして試合出場に備えていますけど」

「『若い選手のチャンスを奪って良いのか?』という葛藤が常にあります。またチームの足を引っ張ってはダメなので、自分の状況を冷静に判断します。監督から試合出場の打診をされるのはありがたいこと。自分のプレーができて貢献できる感覚や自信があれば『行けます』と答える。そうでない時は『無理です』と言います」

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当初は「野球で飯を食えるとは…」