「これまで、私たちには目標となる人がいませんでした。真木さんには何でも相談できてうれしいです」

 純朴なその言葉は、真木さんが前職で積み残したものであり、転職してようやく手に入れたものだった。勇気をもって転職して良かった。「接遇のプロチームを育てる」という彼女の志は実現しようとしていた。

■「子どもの世話」や「神輿かつぎ」も仕事?

 そんなある日、真木さんは同僚から呼び出された。薄暗い喫茶店で声を潜めてこう打ち明けられた。

「真木さん、どう思います? 私たちは家政婦さんじゃないですよね」

 同僚が勤務する本社は、田園地帯にあり、社長の住まいも兼ねた社屋だ。聞いてみると、そこでの社長の公私混同ぶりに社員は悩まされているという。

 昼時になると、社長宅でみそ汁を作らされる。表向きは弁当持参の社員に提供するため、という理由だが、食材の費用負担もしない社長一家の昼食にもみそ汁が提供されているという。しかも、社長一家が手を付けるまで、社員はお預け状態で弁当を食べることも許されない。揚げ句の果てに、昼食後に社長の母親から呼び出され「ダシが効いていない」と指導が始まるというのである。

 真木さんは、初めて聞くこれらの話に憤った。

「まるで、相撲部屋のちゃんこ番じゃない!」

 他にも、雨天時は社長宅の洗濯物を取り込まされたり、子どもの運動会の場所取りなども社員に命じられている。また、男性社員は、社長の親族の披露宴で神輿を担がされ祝儀まで払わされたが、披露宴の座席や料理もなかったというのだ。

 この話を聞いて怒り心頭だった真木さんだが、数日後には、彼女自身にも“被害”が及ぶことになる。

■「元CAのくせに」

 社長には中学生になる息子がいるが、学校から友達を引き連れて帰ってくると、事務所の応接室を占拠して騒ぐのが恒例になっている。本来は誰かが注意すべきだが、当然ながら社長は黙認。その日は、真木さんが彼らに冷たい飲み物とお菓子を出す「仕事」を命じられた。

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「ウチは家族主義の会社なのよ」