新天地での「理想」と「現実」に悩まされる転職者は少なくない。写真はイメージ(PIXTA)
新天地での「理想」と「現実」に悩まされる転職者は少なくない。写真はイメージ(PIXTA)

やりがいのある仕事に転職して幸せになりたい。そんな純粋な気持ちが、横暴な経営者に踏みにじられたら、その転職者は何を思うだろうか。昨年11月に発表された厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」では、転職者が転職先を決めた理由(複数回答)として、「仕事の内容・職種への満足」(41.0%)が最も高く、次いで「自分の技能・能力が活かせる」(36.0%)が挙げられた。その一方で、オーナー経営者やその一族の言動により、個人の意欲が阻害され、退職を余儀なくされるケースも後を絶たない。元大手人材紹介会社教育研修部長で、長年にわたり転職先での活躍支援に携わっている川野智己氏が、実際にあった転職者の修羅場を紹介する。

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■理想の職場を求めて

 真木弥生さん(38歳=仮名=)は、航空会社の国際線CAとして誇りを持って働いていた。特に海外の乗客に対して、細やかなおもてなしで日本のサービスの質の高さを伝えることができるのは、仕事の喜びだった。その意味で、東京五輪はその絶好の機会になるはずだった。

 しかし、コロナ禍での外出自粛に伴い、航空会社は急激な人員削減を迫られた。人が減ったことで雑務も急増し、思うような接遇もできなくなっていた。フライトごとにクルーが変わるシフトの特性から後輩を育てることもままならなかった。連携や相互成長への刺激がない中で、CA個々の力量だけでは全体のサービスの質は高まらないと、真木さんは徐々に仕事に限界を感じ始めていた。

 同じ時期、私生活においても、それまでお付き合いしていた男性との別れという転機があった。実は、彼は既婚者だった。「お付き合い」といっても彼にそこまでの認識があったのかはわからない。彼の優しさを失う怖さから、はっきりとそれを確かめる勇気も無かった。本妻との子どもの誕生を喜々として話す彼を見て、「人の家庭の不幸せの上に自分の幸せを築けない」と感じ、出会いから6年半後に別れを選択した。

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