集団授業に加えて各生徒のレベルごとに指導する個別指導専用スペース
集団授業に加えて各生徒のレベルごとに指導する個別指導専用スペース

 少人数によるきめ細かな指導――これだけなら他塾にもある「売り」だが、吉田氏はその先も考えて進学館ルータスの設計をしたという。

 首都圏進学塾に通う子どもの実態として、ハイペースな大手塾の授業についていけなくなると、個別指導塾や補習塾と併塾するケースが多い。吉田氏のもとにも、そうした相談が何件も寄せられたという。受験生の負担やかさむ塾費用を考えると、親子の悩みは深刻だ。これを解決するために、吉田氏は「オールインワン教育」を取り入れた。

「少人数での集団授業に加え、個別指導、理科実験教室とアップが手掛けるさまざまな教育コンテンツを、ここ1校に通うことで全て受けることができるようにしました。個別指導では、集団授業を教えている講師が一対一で指導にあたるので、すべての生徒の習熟度をきちんと把握できます。集団授業でわからなかった点を解消したり、さらにレベルの高い問題に取り組んだりなど、各生徒のレベルに合わせられるので学習効果が非常に高い。ここに、科学教室『サイエンスラボ』もセットにします。これは中学受験問題に直結する科学実験を体験させることを重視します。なんとなく覚えている知識を、体験を通して確実に定着させていくことが目的です。全学年使える自習室も設け、自学自習を促すよう、iPadなどの設備も完備させました。ここまで塾で完結させることができるので、親御さんの家庭での負担も劇的に減るはずです」

塾の宿題をサポートする「宿題教室」スペースも
塾の宿題をサポートする「宿題教室」スペースも

 受講料は4年生で1カ月あたり5万円(税別)に設定する予定だという。併塾した場合にかかる費用などの負担を考えると、リーズナブルだと感じる親もいるだろう。

 ■校塾連携という試み

 さらに、吉田氏には「校塾連携」という関西時代から変わらない経営方針がある。

「学校と塾には密接な関係があります。学校に魅力を感じた小学生が、受験塾での頑張りをへて送り出され、その学校の入学生になるわけです。学校と塾に元気がなければ、教育界も活性化しませんし、何より子どもたちの学びにとってプラスになりません。相互に連携をはかって、盛り上げていく必要があると考えています」

 実際、吉田氏は開塾準備にあたり、昨年から首都圏のさまざまな学校に繰り返し足を運び、話を聞きに行っているという。学校はどのような生徒を求めているのか、入学にあたりどのぐらいの学力をつけておくべきなのか、学校研究に余念がない。校塾連携を実現させるために、塾の立地エリアにある学校研究には、特に力を入れていく考えだ。

 共学の難関校である渋谷教育学園渋谷中学校(渋渋)や男子御三家の麻布中学、女子の名門校・東洋英和女学院中学部などは保護者から熱望の声も多く、個別対策も強化していく方針だという。特に渋谷という立地上、渋渋との校塾連携は深めていく考えだ。

 今後の校舎拡大についても、校塾連携の視点からエリアに近い学校を見据え、池袋や吉祥寺あたりを候補にしているという。

 ベネッセという看板を背負って東京進出してきた「進学館ルータス」が中学受験塾業界の台風の目となるか。塾業界、そして受験生を持つ親からも注目が集まりそうだ。

(AERA dot.編集部・市川綾子)