安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、逮捕された山上徹也容疑者の母親が入信していた宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧・世界基督教統一神霊協会=統一教会)日本教会の田中富広会長が行った記者会見を、元信者はどう見たのか。金沢大学教授で『統一教会と私』の著書がある仲正昌樹氏は、東京大学に入学した1981年に同大駒場寮で原理研究会に勧誘されたのをきっかけに入信し、92年までの11年半、会員として活動。その経験から「当時は会員のことや献金内容について幹部にあげていくような組織ではなかった」と内情を明かす。

【写真】高校時代の山上徹也容疑者

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――元信者として事件をどう見たか。

「特定の宗教団体への恨み」という山上容疑者の供述が報道され、旧統一教会のことではないかと思っていましたが、母親の献金によって家族が崩壊したことと、安倍元首相を殺害するまでに大きな飛躍があり、とても理解しにくいと感じます。子どもの頃に飼っていた犬を殺処分されたと元厚生事務次官を連続で殺害した事件(2008年)の小泉毅死刑囚と似た印象を持ちます。

 ごく普通に考えれば、恨むのは母親や献金をそこまでやらせた人と教会でしょう。山上容疑者の思考回路はわからないし、想像でしかないが、どこかで自分の人生はもうだめだと感じたのでしょう。後になって「どこから狂ってしまったんだろう」と原因を辿り、彼の中でわかりやすかったのが旧統一教会と日本を動かしているように見える元首相の安倍さんという存在だったのかもしれない。

――家庭連合の田中会長は記者会見で、献金額について「記録が辿りきれていない」「(山上容疑者の母親が)破産に至った事情は把握していない」と話していました。

 あれは本当に知らないのだと思います。旧統一教会がメディアで話題になるとき、ものすごく大きな団体で組織的に動いているように扱われますが、それには違和感があります。私が入信していたときは、会員の状況を幹部がちゃんと把握しているような教団でなかったし、中央管理的に情報を挙げていくようなシステムはなかった。献金や霊感商法もノルマがあれば達成しようと一生懸命になりますが、どういう手段を取るか、どのぐらい献金を要求していいのかは現場に任されていました。

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教会側の「把握していない」 真意は…