立正大淞南の太田充監督(画像は筆者提供)
立正大淞南の太田充監督(画像は筆者提供)

 また、昨今の野球界の傾向、自身と米子東野球部へのイメージを踏まえながら、持論を続けた。

「近年の高校野球界は、『合理化、効率化、そして短時間』の方向に振れ過ぎている印象があります。私自身も『科学的根拠に基づいて練習する』という話をよくしますし、野球もスポーツである以上、スポーツ科学を踏まえることは不可欠。科学的根拠は当然大切なんですけど、そこに振れ過ぎているチームが全国で勝てないのは間違いないと思います。ひとつのことに執着して突き詰める、徹底するためには時間もかかるし、労力も使う。その時間という対価を払う覚悟、先程言った高校生活を野球に捧げる覚悟を持っていないと、日本一は目指せません。甲子園を経験させてもらって、『短時間、効率的』だけでサラッと勝てるほど甘いものではないと実感しました」

 続いて現代の指導者に求める姿勢を補足した。

「長らく野球に必要だとされていたトレーニング種目が逆効果と判明したり、スポーツ科学は驚くべき早さで進化しています。その流れに置いていかれないように指導者は時間やお金という対価を支払いながら、学び続ける姿勢が求められる時代です。ただ、最新鋭の知識をフル活用して最高の選手を育てても、試合のプレッシャーに打ち勝てる精神的な部分が鍛え込まれていなければ、勝負には勝てないとも痛感しています。その精神的な部分を培うのが、グラウンドで重ねた練習時間だったり、ウチにはないんですが、緊張感のある寮生活なのだと思います。勝つため、日本一になるためには『合理的、効率的』で片づけられないことも絶対に必要。指導者は時代の進歩に取り残されないように学び続けること、その一方で、世間が生む流れに抗うことも必要。この2つを高次元のバランス感覚で両立させたチームが勝っているんだと思います」

 もちろん科学的根拠を持った練習メニューを行うことは大切で、米子東でも徹底されている。ただ、科学的に正しい練習と“短時間”がセットで語られる現状への違和感があると紙本監督は語る。「米子東野球部の練習量に驚く新入部員もいます。『科学的根拠のある練習にたくさんの時間を割く』ことが一番なのは間違いないと思います」と続けた。

次のページ
全国制覇に必要な“4つの要素”