撮影:大原明海
撮影:大原明海

■幸せそうな自分が写っていた

 大原さんはこれまで自分の過去の写真に興味がなかった。それがどこにあるのかさえも知らなかった。家の中を捜索すると、「どうでもいいお菓子の缶に入っていた」のを発見した。

「でも、それを見たとき、こんな瞬間を撮っていたんだ、と思って、びっくりした。写真で見るかぎり、そこには幸せそうな自分の姿が写っていた」

 大原さんは作品づくりで人を写すことはあるが、それ以外は、人を写すのは苦手という。

「もし、自分が人の写真を撮るなら、やっぱり、好きな人しか撮影しない。父は安い給料のなかからお金を出して、高い一眼レフを買ってまで私たちを撮っていたことに気がついた」

 大原さんは見つけた小さな写真を複写した。

「客観的に、まるで他人を撮るような感じではあったんですけれど、ファインダーの向こうに、動いていない人がいるみたいでした」

 さらに地元の鉱物コレクターにお願いして、さまざまな鉱物の結晶の塊をクローズアップして写した。それを子どものころの自分の写真と重ね合わせるように合成した。

 それらの結晶は、「晶洞(しょうどう)」と呼ばれる岩石の空洞の内側に長い時間をかけてできたもので、外国には人が入れるほど大きな晶洞もある。大原さんはそんな結晶で覆われた「部屋」をイメージして写真を重ね合わせた。

撮影:大原明海
撮影:大原明海

■音楽事務所に「写真はいいね」

 イメージを重ねる手法の作品で知られる大原さん。その原点をたずねると、写真ではなく、絵画という。

「中学生のころ、絵を描いていたんですよ。その絵をコラージュするように何枚も重ねた。写真はその延長ですね。異なる時間や瞬間を1枚のなかに重ね合わせるのがものすごく好きなんです」

 写真に興味を持つようになったのは音楽のジャケット写真からで、神話をテーマとしたジャケット写真が有名な写真家・ホリー・ワーバートンに大きな影響を受けた。「彼女はポートレートにいろんなモチーフを重ねるのがとても巧みで、いまでもとても好きです」。

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「父親もちょっとうれしいんじゃないかな」