鬼を連れ歩く炭治郎、泣き虫で自分に自信がない善逸、孤独に山奥で育った伊之助。彼らにとって、自分を信じて、認めてくれた煉獄のこの言葉は“大切な宝物”になった。しかし、炭治郎は深い悲しみから「煉獄さんみたいになれるのかなぁ…」と弱音を口にしてしまう。それを見た伊之助がこう叫んだ。

<信じると言われたなら それに応えること以外考えんじゃねぇ!!>(嘴平伊之助/8巻・第66話「黎明に散る」)

 強く優しい炎柱はもういない。彼らはもっともっと強くならねばならなかった。煉獄との戦いを契機として、炭治郎、伊之助、善逸は以前よりもさらに任務に励むようになった。

■煉獄杏寿郎の生きざま

 では、煉獄杏寿郎自身は幸せだったのか。煉獄の最期を見届けた人は、それぞれに思い浮かべた彼の姿があるはずだ。

 煉獄は、鬼殺隊の剣士になれない弟に、鬼狩り以外の生き方を認めた。立ち直れない父の健康を心配し続けた。あの、一見すると日常の風景でしかない家族との思い出が、すれ違いの場面も含めて、煉獄には大切なものだったのだ。「その力を世のため人のために」使いなさいと、幼い煉獄にさとした亡き母が、「立派にできましたよ」と彼のことを褒めてくれた。

 最期の場面で、煉獄は笑っていた。幸せだったのかどうかは、言うまでもないだろう。それが彼の「生きざま」の答えなのだ。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

著者プロフィールを見る
植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

植朗子の記事一覧はこちら