実は、東尾監督の推測どおりだった。マルティネスが打席に入る直前、大量リードの余裕から、試合途中でベンチに下がっていたブルックスとウィルソンがニヤニヤ笑いながら英語で「今度は(死球)いくぞ」「ぶつけろ」という意味のヤジを連発していたのだ。

 当初は冗談だと思い、聞き流したマルティネスだったが、本当に死球を食らったため、「故意にぶつけた」と思い込んでしまったのだ。

 試合後、マルティネスは「頭に血が上った。打席に入る前に変なヤジがあったので、狙われたという先入観があった。反省している」とションボリ。

 本来なら、審判は両助っ人の挑発的なヤジに対して、退場を宣告できるアグリーメントがあるのだが、何を言っているかわからなかったため、対応できなかったという。

 こうした事情も考慮され、マルティネスには出場停止処分や制裁金は科されず、厳重注意だけで済んだ。性格の良い助っ人ならではの温情措置といえるだろう。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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