試合開始直前にエースが投げられなくなるアクシデントにもかかわらず、控えの3投手が踏ん張り、九死に一生を得て夏の甲子園初出場を実現したのが、89年の日大三島だ。

 静岡大会決勝の長泉戦、日大三島はエース・小泉祐幸が先発のマウンドに上がったが、投球練習で1球目を投げた直後、肘の違和感を訴え、一人の打者とも対戦しないまま、まさかの降板となった。野球規則の特例により、小泉は投球数0にもかかわらず、登板記録だけが残った。

 試合開始早々、エース不在のハンデを背負った日大三島だったが、「小泉の分まで」と打線が奮起する。

 3回に4番・小林和也の2点タイムリー二塁打などで4点を先制すると、4回にも4長短打を集めて5点を追加。9対0と大きくリードした。

 だが、その裏、小泉の代役でスクランブル登板した高梨雅規が、4番・中村一光にバックスクリーンへの特大2ランを浴びると、一転流れは長泉に。

 リリーフした1年生・関孝浩も5回に2点タイムリーを許し、4対9の8回にも無死満塁のピンチを招いてしまう。

 この苦しい場面で、春先に肩を痛めて以来、ライトを守っていた武井祥浩が“最後の砦”として3カ月ぶりに登板。併殺の間に1点を失ったものの、最少失点で切り抜けた。

 ところが、勝利目前の9回に3ランを打たれ、たちまち1点差。森下知幸監督も「9点を取り、守りに入っていたので、逆転されるパターン」と覚悟したほどだった。

 だが、なおも2死三塁のピンチに、武井は落ち着いて最後の打者を三ゴロに打ち取り、9対8で逃げ切り。

 まさに“筋書きのないドラマ”のエッセンスが凝縮されたような好試合だった。

 最後の打者を三振に打ち取り、ゲームセット。甲子園出場決定と思われた直後、一転試合が続行されるどんでん返しが起きたのが、17年の長崎大会決勝、波佐見vs清峰だ。

 延長10回、川口侑宏の左翼ポール際への2ランで4対2と勝ち越した波佐見は、その裏、2死一塁で、村川竜也が5番・豊村直大を2ストライクと追い込んだあと、低めの球で空振り三振に打ち取った。

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一瞬の気の緩みが危うく…