馬場さん以外で怖い人といえば、やっぱり(ザ・グレート・)カブキさんだ。日本プロレス殿堂会のイベントでも、小橋(建太)や越中(詩郎)たちが口を揃えて「怖い先輩はカブキさん」と言っていたんだろう? いやあ、現役の頃のカブキさんは、ケンカっぱやくて有名だったからね。

 大阪で試合があると、お客さんから結構キツい野次がよく飛ぶんだ。馬場さんが歳を重ねた頃なんかは「馬場! そんなにゆっくり歩いてたらハエが止まるで!」なんて野次が飛ぶんだ。そんなのが聞こえようもんなら、カブキさんはその席まで行って、客にチケット代金を返して会場からつまみ出していたからね。そういう客に真っ先に行くのがカブキさんだ。カブキさんが百田のみっちゃん(光男)や小橋に「あいつをつまみ出せ」と言うと、みんなパッと客のところまで行ってつまみ出しちゃう。当時はそういうピリピリした雰囲気をまとっていたね。今ではすっかり仏様みたいになったけど(笑)。

 カブキさんは怖かったけど、俺がプロレスに入ってしばらくうまくいかなくてもやってこられたのは、カブキさんがいろいろ目をかけてくれたからでもあるんだ。カブキさんが日本プロレスに入ったときの社長が芳の里さんで、よくかわいがってもらっていたようで、その恩義があったから、相撲から来た俺に目をかけて面倒をみてくれたんだ。カブキさんがそうしてくれることで、周りの選手も俺に一目置くようになったからね。さかのぼれば、力道山関も俺と同じ二所ノ関部屋出身だし、俺と相撲とプロレスと、不思議な縁があると感じるよ。

 二所ノ関部屋といえば、俺がいたころは大横綱の大鵬さんに関連して、怖い思いをしたこともある。大鵬さんが独身の頃、宿舎に若いおネエちゃんを連れ込んでいてね。俺は“何かやるだろう”と思って、のぞき見しようとしたんだ(笑)。そうしているところを先輩の力士に見られちゃって、「お前、何やってるんだ!?」って追い返されてしまって、のぞきは未遂に終わった。ただ、横綱の部屋をのぞこうとしたのがバレたら、大変な“かわいがり”をされるのは目に見えている。先輩がチクったら終わりだから、しばらくの間はおびえていたよ。でも、その先輩は口外することはなくて、本当に助かった。よくぞ、言わないでいてくれたもんだ。まあ、今では実はその先輩も横綱をのぞきに来ていたんじゃないか、ということで俺の中で落ち着いている(笑)。

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大阪のミナミで飲んでいたら、まさかの大鵬さん!