「音柱」の宇髄天元(画像はコミックス9巻のカバーより)
「音柱」の宇髄天元(画像はコミックス9巻のカバーより)

鬼滅の刃』の登場人物で、ファンから最も美しい男と称されるのは「音柱」の宇髄天元だ。アニメ第2期「遊郭編」のPVでは、宇髄の「派手だろ?」というセリフと華やかな姿が話題となった。しかし、明るく艶やかな言動とは裏腹に、宇髄は自分の半生と「柱」としてのあり方に苦悩する。宇髄が求める「強さ」は、彼が抱える苦しみと表裏一体でもあった。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■派手で美しい男・宇髄天元

 魅力的なキャラクターが数多く登場する『鬼滅の刃』の中でも、最も美しい男・宇髄天元(うずい・てんげん)。冨岡義勇、素顔の嘴平伊之助、刀鍛冶の鋼鐵塚蛍など、目をひく容姿の登場人物は少なくない。

 だがそんな中で、宇髄天元の外見の描写は特別だ。198センチ・95キロの恵まれた体格、激しい戦闘をくぐり抜けながらも、傷ひとつない美しい顔立ち。さらに宇髄は、隊服にも宝石や金の装飾をつける「派手さ」を好み、その華やかな美貌を「わざと」際立たせている。

<俺は“元忍”の宇髄天元様だぞ その界隈では派手に名を馳せた男>(宇髄天元/8巻・第70話「人攫い」)

<いいか?俺は神だ!><派手を司る神…祭りの神だ>(宇髄天元/9巻・第71話「遊郭潜入大作戦」)

 その言動からも、宇髄は自ら派手さを強調していることがわかる。

■皆がうらやむ宇髄の容姿

 宇髄の活躍が主に描かれるのは「遊郭編」だが、ともに任務にあたった鬼殺隊隊士・我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)が、彼の顔を「普通に男前じゃねえか」とねたむシーンがある。また美しい男女を見慣れているはずの遊郭で働く者たちも、その美貌に目を奪われる。

<お前いいなぁあ その顔いいなぁあ><女にも嘸かし(さぞかし)持て囃されるんだろうなぁあ>(妓夫太郎/10巻・第86話「妓夫太郎」)

 敵対する鬼にすら、その美しさを褒められ、嫉妬される男。素顔の宇髄も美しいが、戦闘中、隊服に身を包む彼は、2本の大きな日輪刀を背負い、目の周りには派手なメーク、爪にもネイルをほどこし、きらびやかな装飾品に身を包む。後述するが、宇髄が派手さを強調し、戦闘の邪魔になりそうなこれらの装いを「あえて」しているのには理由がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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宇髄の心に去来する「煉獄の死」