「ウェブで拝見して、ちょっと震えるほど感動してしまって。1時間くらい茫然自失としてしまって。自分、何やってるんだろうなって振り返るくらい素晴らしかったです」

 じつはこのカバー、最初にYouTubeで公開された。水野はそれにいたく感動したようだ。64歳の武部はもとより、水野も38歳。橋本にはそんなオジサンたちをときめかせる魅力があるのだ。

 その特別な魅力を何より感じさせたのが、2019年の主演ドラマ「長閑の庭」(NHKBSプレミアム)である。23歳の大学院生と64歳の大学教授の恋を描いたもので、彼女と田中泯が演じた。

 人づきあいが苦手で、敬語でしか話せず、根は女子っぽいのに黒い服ばかり着ているというヒロインはこれ以上ないハマり役。超のつく「年の差恋愛」に絶妙なリアリティーをもたらしていた。オジサンのはしくれとして言わせてもらえば、この子なら本当に自分のことを好きになってくれるかも、と妄想させるものがあり、それが彼女の「オヤジころがし」の魅力につながっているのだろう。

 具体的なポイントを挙げるなら、そのどこか放っておけない雰囲気だ。いや、雰囲気だけでなく、8年前のブレーク直後には「奇行」騒動でも注目された。コンタクトレンズのPRイベントで、

「最初、医者から『目にごみを入れるようなものだよ』と脅されたのでマイナスからのスタートでした」

 と、まさに「マイナス」なことを口にしてしまったり、深夜の歓楽街を変装もせずに歩いて、道端の看板をいきなりたたいたりしているところを目撃されたり。それが報じられたことで、メディアやファンに不信感を抱き、よけいに気持ちをこじらせたりもしたようだ。

 とはいえ、そういうところもあるからこそ、こじらせた役がハマる。

 出世作というべき2010年の映画「告白」もそうだった。彼女が演じたのは、クラス委員長でありながら、家族を毒殺した事件で有名になった少女を信奉している屈折した中学生。最終的には、こじらせた者同士、理解し合えているはずだった同級生男子に殺されてしまう。

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饒舌ではない秋吉久美子?