その3年後、ブレーク作となったNHK連続テレビ小説「あまちゃん」でも、面倒くさい美少女で途中グレたりもする役を演じ、ヒロインとの好対照をみせた。

 そんな「こじらせ」と密接した関係にあるのが、前出の「長閑の庭」でも発揮された一風変わった色気だろう。かつて、音楽評論家の平岡正明は昭和有数のスター・山口百恵の表情にある「沈む眼」に着目し、その色気を「開きかけてはしぼむ感覚」と形容した。橋本にもそこに通じるものがある。硬くてぎこちない、儚げな魅力だ。

 彼女にとって初の大河となった「西郷どん」(18年)でもそのあたりが存分に生かされた。西郷隆盛の最初の妻だが、無愛想で「不吉な嫁」と呼ばれ、夫を慕いながらも身を引くようにして離縁される役だ。

 また、彼女と似たタイプを過去の女優から探すと、洞口依子あたりが思い浮かぶ。さらにさかのぼると、饒舌ではない秋吉久美子、といったところだろうか。この人も何かと言動が驚かせる人で、24歳のときのできちゃった婚では「卵で産みたい」という発言が話題になった。

 もっとも、秋吉や洞口、百恵がそうだったように、橋本も「こじらせ」だけの女優ではない。2度目の大河となった「いだてん~東京オリムピック噺~」(19年)で、きっぷのいいアネゴ肌の遊女を演じたように、芸風も広がってきた。今回の「青天を衝け」でもすでに同世代のマドンナ的存在として輝きをみせたわけだ。

 そして、栄一と結婚してからの千代について、彼女は「エンタメOVO」のインタビューでこう語っている。

「夫婦になる前からそうだったんですけど、夫婦になった後は、より2人の関係性の少女漫画味が強くなっているんです。『これは女の子をキュンキュンさせるために書いたのかな?』と思うようなシーンがたくさんあって(笑)。でも、私はそういうシーンがすごく恥ずかしくて、苦手なんです」

 その恥ずかしさを取り除くようにしながらも、千代には派手な愛情表現を「はしたない」とする品性もあるので、そこについては抑えた芝居を心がけているとのこと。「抑えている分、千代からにじみ出る愛情が伝わったらいいな…」というのが、彼女の演技プランのようだ。

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あえて感情を前に出さない演じ方