単純ヘルペスウイルスの感染経路は、主に接触感染です。活発にウイルスを排出している人との濃厚接触が感染を引き起こします。具体的には、水疱やびらんなどの病変部や、感染している人の唾液などへの接触や、キス、頬ずり、性行為によって感染します。また、くしゃみやせき、会話の際にウイルスを含む飛沫が放出され、すぐ近くにいる人の皮膚や粘膜に直接的にかかることによっても感染(飛沫感染と言います)してしまうことがわかっています。

 私も、いつの間にか単純ヘルペスウイルスに接触してしまったようです。初めて症状が出た時は、唇の端の方に小さな水ぶくれがプツプツたくさん出現し、ピリピリ痛かったのを覚えています。一般に、口唇ヘルペスの初発の際は小さな水ぶくれがたくさんできます。しかし、再発した際は、初発より水ぶくれは少なくなり、症状の範囲も狭くなる傾向にあるようです。

 単純ヘルペスウイルスは、初めて感染した後に神経節という神経細胞が集合したところに潜んでいます。このウイルスは、一度感染すると生涯にわたって神経に潜むため、私たちは一生付き合っていくことになります。元気で健康な時は、神経に潜むウイルスは免疫系によって抑えられているので、活発になることはなく、症状は出現しません。しかしながら、過度の日光曝露や、発熱を伴う疾患、身体的または精神的ストレス、疲労、外傷などが刺激によって免疫が低下してしまうと、単純ヘルペスウイルスは活動を始め、症状を引き起こしてしまうというわけです。季節の変わり目や、今の季節のような気温差の激しいとき、年度末などの多忙な時期や、環境の変化が起きる時は、疲労やストレスが溜まりやすく、注意が必要と言えるでしょう。

 残念ながら、このウイルスを体内から追い出すような薬はありません。予防につながるワクチンもまだありません。症状が出現したら、ウイルスの増殖をおさえる抗ヘルペス薬を内服するか、塗り薬を使用することが口唇ヘルペスに対する治療法です。この抗ヘルペス薬は、単純ヘルペスウイルスが活動し、どんどん増殖する時に効果を発揮するので、なるべく早く使用することが効果的であり大切です。

 また、何度も再発をくりかえす場合は、再発を抑制するために内服を続けるという方法もあります。繰り返して辛い、という方は一度相談してみてくださいね。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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