次第に症状がひどくなり、望月さんは月経前、会社を休むように。すると、上司から休みが多いことを指摘され、一部の社員からは嫌みを言われた。望月さんは上司に生理が重いことを相談したが、「お遊び気分で良いですね」とため息をつかれた。

 そんな望月さんに対し、人事は産業医面談を受けるように指示する。産業医からは休職を勧められ、6カ月近く休職が決定。その後復職した望月さんを待っていたのは、針のむしろだった。

 仕事は与えられず、望月さんの席は、他の社員から離れた場所だった。

「所属長と面談するも『おまえはムカつく』などひどい言葉を浴びせられるだけ。その場に泣き崩れ、『死にたい』と思いました……」(望月さん)

 PMDDの場合、普段なら受け流せるような些細な出来事が、大きな精神的ダメージになることもある。

「PMDDはストレスに大きく影響されるので、症状が強く出る月もあれば、めったにありませんが、頭痛程度ですむ月もあります。でも逆にそれが周りには『気分屋、自分勝手』と映るようです」(同)

 望月さんは、現在も心療内科に通院し、抗うつ剤などを服用中だ。体調が良いときは、散歩をして外の空気を吸ったり、ストレッチをしたりして血流を促し、カフェインなどの刺激物を控えるなど、PMDDの改善に努めている。

 前出の内田医師は次のように説明する。

「メンタルの不調は、『目に見えない』『長期化する』『一進一退がある』ことなどから、周囲からすると『よく分からない』『いつまで続くの?』と疑問が生じ、ご本人からすると『理解してもらえない』となり、両者の間に溝を生むこともしばしば。人間関係に影を落とすこともあります。これはPMDDに限ったことではありません。PMDDは幸いにも症状が安定する期間があると思いますので、そこで、職場なら上司と、夫婦なら夫となど、両者が歩み寄って『建設的な対話をする』『リーフレットなどで一緒にPMDDについて勉強する』。そしてご本人は、『通院を中断しない』。そんな対策が取れると良いと思います」

 望月さんを含め、当事者の女性らの悩みの一つは周囲の理解を得られにくいこと。日本産科婦人科学会によれば、月経前の症状で生活に困難を感じている日本人女性の割合は、5.4%程度と言われている。現実社会で同じ悩みを持つ人と出会うことも少ない。

 私は約2年前にPMDDと診断され、認知度の低さを問題視し、「まずは知ってもらうことから」と、こうした記事を定期的に執筆するに至る。昨年は、当事者同士が情報交換し、悩みを共有し合う場が必要と考え、「月経前の悩みに寄り添う会」を立ち上げた。望月さんのように悩んでいるなら、ぜひ検索してみてほしい。(旦木瑞穂)

※1 Tanaka E,Momoeda M,Osuga Y et al.Burden of menstrual symptoms in Japanese women;results from a survey-based study. journal of Medical Economics 2013;Vol 16, No 11:1255-1266
※2 T.Takeda.et al.,Arch Womens Ment Health 2006
※3「生理前カラダの調子やココロの状態が揺らぐ方へ PMS 月経前症候群」(監修:田坂慶一)

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旦木瑞穂

旦木瑞穂

プロフィール:旦木瑞穂(たんぎ みずほ)/愛知県出身。グラフィックデザイナー、アートディレクターを経て2015年に独立。葬儀・お墓・ダブルケア/シングル介護・PMS/PMDDに関する執筆のほか、紙媒体の企画編集・デザイン、イラスト制作を行う。

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