効果には個人差があるため、まずは「トライアル」として電極だけ挿入し、効果が得られるかどうかをみる試験的な治療をおこないます。電極の挿入は局所麻酔でおこない、4~5日間入院して刺激の調整や確認をし、効果が得られなければ外して元の状態に戻すことができます。

 トライアル後は2週間程度通常どおりに生活し、トライアルによる痛みの変化などを確認した後、効果が得られた場合には刺激装置を植え込む手術をおこないます。手術は静脈麻酔(うとうとした状態)でおこない、4~5日間入院が必要になります。脊髄刺激療法は健康保険の適用になっており、高額療養費制度も利用できます。

 退院後は通常どおりに生活できますが、体内で刺激装置や電極が安定するまでの2カ月程度は、からだをひねるような動作や重い物を持つことなどは避ける必要があります。ただ、電気刺激により神経が傷ついたり、からだのほかの部分に悪影響が出たりすることはありません。

■電気刺激の種類が増えMRI対応機種も

 刺激装置は従来、非充電式(電池が内蔵されている)のものでしたが、近年は充電式のものも登場しています。非充電式のものは、内蔵されている電池で2~5年間使用できますが、電池がなくなったら電池交換のための手術が必要になります。充電式のものは、専用の充電器を体外から刺激装置にあてて定期的に充電をおこないます。

 また電極の数も8極と増え、脊髄の適切な場所に刺激を与えられるようになりました。近年では電気刺激の種類が増えて、患者の好みに合う刺激が選べるようになり、患者の姿勢の変化を感知して刺激の強さを自動的に切り替える機種なども登場しています。また、以前は装置を植え込むことでMRI(磁気共鳴断層撮影)検査が受けられませんでしたが、現在ではMRIに対応できる機種もあります。

「人間のからだは加齢により変化するもので、目や耳が悪くなれば眼鏡や補聴器を使いますが、痛みにはそういう方法がありません。脊髄刺激療法は手術が必要な治療法ですが、眼鏡や補聴器が部分的な機能低下を補うように、痛みと『付き合っていく』ために有用な治
療法と考えます。まだ認知度は低いですが、今後さらに普及していくことを期待しています」(同)

【対象になる人】
 慢性的に痛みが続く人(原則として3カ月以上)が前提
・神経の障害や血行障害による痛みがある人
・手術をしても痛みが改善しない人
・手術後に痛みやしびれが悪化した人
・高齢や持病などにより手術ができない人
・薬物療法で痛みが改善しない人

取材・文/出村真理子

※週刊朝日ムック「首腰ひざのいい病院2020」より