体内に植え込んだ刺激装置から細い電極を通して脊髄に電気を流し、痛みの信号を脳に伝わりにくくすることで痛みを緩和する(イラスト/寺平京子)
体内に植え込んだ刺激装置から細い電極を通して脊髄に電気を流し、痛みの信号を脳に伝わりにくくすることで痛みを緩和する(イラスト/寺平京子)

 薬や手術でとり切れない慢性的な痛みを和らげる方法として注目されつつある脊髄刺激療法。どのような治療法なのか、どのような人が対象になるのかを専門医に聞きました。

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 脊髄刺激療法とは、体内に植え込んだ装置から細い電極(リード)を通して脊髄に微弱な電気を流し、痛みを緩和する方法です。本来、「痛み」は、痛みの信号が脊髄を通って脳に届くことで感じるものですが、脊髄に電気刺激を与えることで、痛みの信号が脳に伝わりにくくなると考えられています。

 この治療法の対象となるのは、主に神経の障害や血行障害による慢性的な痛みで、手術や薬物療法であまり効果を感じられない人、手術により痛みやしびれが悪化した人、高齢や持病により手術ができない人などが挙げられます。

 脊髄刺激療法は、痛みの原因を取り除く根治的治療ではなく、痛みを緩和させる治療法です。この治療をおこなっている稲波脊椎・関節病院の整形外科医、金子剛士医師はこう話します。

「痛みが完全になくなるわけではありませんが、痛みを和らげて『付き合える痛み』にすることで、動けるようになる、眠れるようになるなど、QOL(生活の質)の改善が期待できます。治療したけれど効果を感じられない、痛みのせいでやりたいことができない、痛みを少しでも軽くしたいと望む人の『次の選択肢』として有効な治療法と考えられます」

「慢性疼痛治療ガイドライン」にも、脊椎手術後の痛みや末梢血行障害の痛みに対し、脊髄刺激療法をおこなうことで痛みが緩和し、QOLの改善や鎮痛薬の使用量の減少などがみられたと記載されています。

「一般的に、整形外科の病気で手術後にあまり痛みが改善されなかった場合、再手術をすることもありますが、それよりも脊髄刺激療法のほうが低侵襲で効果も高いという研究結果もあります」(金子医師)

■試験的に使用し効果がなければ戻せる

 脊髄刺激療法では、手術をしてペースメーカーのような小さな刺激装置を腹部か臀(でん)部に植え込みます。手術といっても、脊椎手術のような大がかりなものではなく、神経を傷つけるリスクも少なく、からだに負担の少ない手術です。

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