だが近年、胃全摘は減少傾向にある。理由は、術後に食事摂取量が減り、平均15%以上体重が減少するなどQOL(生活の質)が下がるためだ。幽門側胃切除術のほか、胃の上部だけ切除して下部は温存する噴門側胃切除術など、全摘以外の術式が普及してきたという背景もある。

「リンパ節転移の可能性が低い場合は一部でも胃を残して機能温存する傾向です。幽門側胃切除術は術後も食物が逆流しにくく、体重減少率も低く抑えられ、もっとも術後のQOLが高い術式といえます」(大森医師)

 ただし、根治性を考慮して、胃全摘が選択されることもある。

「手術では、がんの周囲を3~5センチ程度切除しなければならないため、胃の上部にさしかかる大きめのがんでは胃全摘になる場合もあります」(福永医師)

■術後の選択は病理診断の結果次第

 手術後は切除した病変を病理診断し、最終的なステージを判定し、再発リスクを検討する。リンパ節転移リスクが低く、がんが完全に切除できたステージIでは経過観察となる。また、ステージIIでもリンパ節転移の可能性がなければ経過観察も考えられる。リンパ節転移リスクがあるステージII~IIIは、がんの再発予防のための術後化学療法へと進む。遠隔転移があるステージIVは切除不能なため、そもそも手術対象にはならず、薬物療法や対症療法となる。

 近年は胃がんに効果的な抗がん剤が増え、薬物療法が効いてがんが縮小し、切除可能になるケースもある。ただし、抗がん剤で組織が硬くなって出血しやすい場合などがあるため、手術の難度は高く、合併症のリスクも大きいという。

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【医師との会話に役立つキーワード】

《リンパ節郭清》
胃の切除と同時に、がんが転移していると考えられる胃の周辺のリンパ節を切除。がんの進行度やがんの部位によって切除範囲は変わる。

《幽門側胃切除術》
胃の手術法の一つ。胃の下部3分の2以上を切除するが、入り口の噴門を残せるため、術後も食物が逆流しにくい。体重減少率も胃全摘よりも低く抑えられる。

【取材した医師】
順天堂大学順天堂医院 消化器・低侵襲外科 教授 福永 哲医師
大阪国際がんセンター 消化器外科 胃外科長 大森 健医師

(文/石川美香子)

※週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2021』より