玉壺を倒した「霞柱」の時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)
玉壺を倒した「霞柱」の時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)

 週刊少年ジャンプに連載された『鬼滅の刃』は、アニメ第2期「遊廓編」の発表とともに、再び注目を高めている。この作品の大きな特徴は、主人公たちの敵である「鬼」にも悲しい過去があり、人間が「鬼化」せざるを得なかった背景が描かれていることだろう。だが、なかにはまったく同情できない“非道な鬼”も存在する。「上弦の伍」の鬼・玉壺もその1人だ。グロテスクな見た目も評判が悪い。だが実は、物語の中で玉壺はある重要な役割を果たしている。「嫌われる」鬼・玉壺の、キャラクターとしての魅力を考察した。(以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます)

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■人気のない鬼・「玉壺」

『鬼滅の刃』には、さまざまな種類の鬼が登場する。鬼は、鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)を頂点に、「上弦の鬼」「下弦の鬼」、それ以外の鬼、と強さの順にランキングされている。今回、テーマとする鬼の「玉壺」(ぎょっこ)は、「上弦の伍」で、5番目の強さということになる。

 しかし、この玉壺、それほどの戦闘力を持ちながら、読者投票では、人気ランキング圏外であるばかりか、「鬼の中でもクズ」「救いようがない」というマイナスのコメントが目立つ。なぜ玉壺はこんなにも嫌われてしまうのか? それは、彼の外見的特徴、そして内面、言動が「不気味さ」におおわれているからだ。

■玉壺の不気味な外見

 玉壺の初登場シーンは、12巻・第98話「上弦集結」であるが、まず扉絵には「板間に置かれた壺」が描かれており、本編ではその壺から「ヒョッ」という奇妙な声がする。「こんな小さな壺から、なぜ声が?」と読者が思う間に、玉壺はその姿をあらわす。

 玉壺の外見は、下半身はサザエの先のように黒く細くうねっており、ふだんは彼の作った「壺」の中に収納されている。人間のような腕はなく、代わりに極端に小さな腕が、頭部に4本、胴体部に何本も生えている。両目の部分には2つの唇があり、そこからベロリと舌を出し、唾液を滴らせる。そして、彼の目は、額と顎の中央部にひとつずつ配置され、額の目には「上弦」、顎の目には「伍」の印が刻まれている。壺から這い出す時には、「もぞもぞ」「うねうね」という擬音がそえられ、壺の中からは粘液のようなものをときおり吐き出す。数多いる鬼の中でも、屈指の気持ち悪さだ。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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玉壺のゆがんだ「美意識」