このように、『鬼滅の刃』の登場人物のうち、数人の「美しいキャラクター」が、玉壺との対比によって、よりその魅力が浮き彫りにされていく。玉壺という鬼の特徴は、残虐行為によってもたらされる「快楽」が、常に付きまとう点にある。玉壺は、人間が持っている「死への恐怖」、「不浄さへの不快感」を、サディスティックな「美」にすり替え、自らの「芸術作品」を通じて視覚化させていく。

 鬼の頂点にいる鬼舞辻無惨が「悪徳の美」の象徴であるならば、グロテスクな玉壺は「悪徳の醜悪さ」の体現であるといえよう。玉壺はあまり人気のない鬼ではあるが、『鬼滅の刃』の中で、人間の「美意識のゆがみ」を表現する、重要なキャラクターのひとりなのだ。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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