東京五輪・パラリンピック大会組織委員の森喜朗会長
東京五輪・パラリンピック大会組織委員の森喜朗会長

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長(83)の失言問題。森氏は続投を表明し、関係者はこの問題の幕引きを図ろうとしている。それに対し、世間では「老害だ!」という声が絶えない。ただ、年齢をとらまえて排除する動きは「差別」ともいえる。では何が問題の本質なのか。映画監督であり、精神科医和田秀樹さんは、「感情の老化」と、いったん権力を握るとクビにできない「日本の組織のいびつさ」を指摘する。

【写真】森会長の発言に苦言を呈した、日本オリンピック委員会の理事の女性はこち

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――森会長が「女性が入ると会議が長くなる」と発言した問題が尾を引いています。相次ぐのが、森氏の存在が「老害」だという指摘。「もう83歳のおじいちゃんなんだから身を引くべき」という意見です。発言は問題がありましたが、「老害」という言葉は年齢差別ではありませんか?

和田氏(以下、敬称略):確かに、年齢だけをとらまえて組織から排除することは差別です。問題は、83歳という年齢自体にあるわけではないと思います。確率統計的に加齢による変化は語れますが、個人に当てはまるとは限らないからです。

――加齢とともに判断力が衰えるので、高齢の森氏は辞任すべきとはいえないのでしょうか。

和田:優秀で高齢で活躍している人は海外にたくさんいますよ。かのピーター・ドラッカーも90代まで現役でした。

 現在、米国でもEUでも年齢差別は法律で禁止されています。性別や信条と同様、年齢を理由に不利益を被るというのはあってはならないことなのです。米国では1967年に「雇用における年齢差別禁止法」が成立しました。例えば、日本では求人広告には性別の条件をつけてはいけませんが、米国では年齢の条件をつけることもできません。

 一方で、非常にアメリカ的だなと私が思うのは、能力による区別は差別ではない、ひらたく言えば能力差別は許される、という点です。

 日本人にはなじみの薄い考え方かもしれませんが、数年前に医学部の大学入試で、女性と多浪生に対して不適切な採点をしていたことが問題になったニュースを思い出してください。年齢差別が許されないならば、同じ点数であれば、18歳の男性も40歳の男性も合格させなければいけないのです。

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日本はいったん実力者になるとクビにされない