――今回、森氏はなぜあんな“暴論”を吐いたのでしょうか。社会のシステムだけに原因があるのでしょうか。「暴走老人」に例える報道もありました。

和田:脳の前頭葉という部分の機能が低下すると、感情のコントロールがしづらくなることがわかっています。もちろんこれにも、個人差はあります。いわゆる「暴走老人」はカッとなったときに感情が止められない人。市役所などで高齢の市民が職員を延々と罵倒している場面に出くわしたことはありませんか? 

 暴走老人は普段は「いいおじいちゃん」が多いんですよ。感情を止められなくなるというだけで。森さんの釈明会見を見ましたが、不機嫌ですが比較的自制か効いており、「暴走老人」とまではいえない気がします。

 ただ、加齢によってもともとの性格が先鋭化することは珍しくありません。もともと疑り深い人が高齢になると猜疑心の塊のようになったり、偉そうな人が年齢とともに横柄な態度が目立つようになったり、逆に気遣いができる人はよりいっそう他人に丁寧に接するようになったりします。森さんは、もともとと失言が多かった人ですよね。80代から性格の先鋭化は進みますから、急に変わったというより、森さんのもともとの性格が際立ってきたのかもしれません。

――和田さんは、超高齢社会の日本において「感情の老化」という概念を提唱しています。森氏の問題も感情の老化と関係があるのでしょうか。

和田:多くの人は知能の老化を気にします。脳トレなどに励むのもそのためです。しかし、実は意外と知的な作業は加齢による変化の影響は少ないのです。本を読み、内容を理解する、計算をするといった能力は加齢で変化しくにくいのです。

 それよりも、自覚しないとどんどん進んでしまうのが「感情の老化」です。感情の老化とは、異論を認めない、未知のものに対応する能力が落ちてくる、感情のコントロールが利きにくいといった変化です。加齢による前頭葉の変化が影響しています。同じ著者の本ばかり読む、行きつけの店にしかいかない、同じ趣向の服ばかり着ているといった行動に表れてきます。

 では、感情の老化はどうやって防ぐか。敵方と議論を戦わせるというのが脳の老化防止にはとても効果的です。蓮舫さんや辻元清美さんのような手ごわい相手とときどき議論するのはいいと思います。四六時中だとしんどいかもしれませんが。

 森さんも周囲をイエスマンばかりで固めるよりも、自分の考えに異論を唱える相手を積極的に組織の中に入れた方がよっぽど脳の老化防止に役立ちますよ。

(聞き手/AERAdot.編集部 鎌田倫子)

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、精神科医・臨床心理士。国際医療福祉大学心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。和田秀樹カウンセリングルーム所長。一橋大学経済学部非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。映画監督としても活躍。『東大医学部』『「コロナうつ」かな?』『感情の整理学』『「感情の老化」を防ぐ本』など著書多数。