現時点では、濃厚接触者と新型コロナウイルス感染症を疑う人にしか、PCR検査は公費負担になりませんから、濃厚接触者と該当されなかった場合、「不安」だから検査したいとなれば自費になります。「不安だけど高額だし、濃厚接触者とは言われなかったし、症状もないからPCR検査はしないでもいいか」と思ってしまっても無理ありません。検査が十分になされていないことが、陽性者の減少の要因の一つではないかと思うのです。

 ちなみに、風邪症状を自覚して受診された方にPCR検査を勧めると「PCR検査を個人的にはしたいが、会社が検査をすることを許可しないので出来ない」「仕事を休むわけにはいかないからPCR検査はしない」という声が聞かれるのも事実です。

 しかしながら、アメリカ海軍医学研究センターの行った海兵隊員の新兵を対象とした調査から、若年者は感染しても無症状者が多く、有症状者を中心とした検査体制では、ほとんどの感染者を見落とす可能性が高いことがわかっています。無症状の感染者を介して、集団内で感染が拡大したことを意味していることを踏まえると、症状の有無にかかわらず、定期的に検査を行い、陽性が出た時点で隔離するしかありません。「濃厚接触者」に該当するかどうかでPCR検査の必要性を決めていては感染拡大を防ぐことに繋がらないでしょうし、陽性が出たら困ると、症状があるにもかかわらずPCR検査をしなかったら、感染はどんどん広がっていくでしょう。
  
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けてドライブスルー式や徒歩式のPCR検査場が次々に設置されたアメリカですが、カリフォルニア大学サンディエゴ校では、より簡単にかつコストを抑えてに定期的なスクリーニングを行うことを目的として、今年の1月2日以降、キャンパス内に新型コロナウイルスのPCR検査キットの自動販売機が11台設置されたようです。大学の身分証明カードを読ませて、無料で検査キットを入手。検査用品を使って自分自身で採取した検体(鼻拭い液)を回収箱に入れれば、1~2日で結果が通知されるという仕組みで、同大学の生徒は、全員症状の有無を問わず週に1回COVID-19検査を受け、定期的なスクリーニングを行っていくといいます。

 1月20日時点で1日あたり最大13万5千件のPCR検査が行えるようになっている日本ですが、まだまだPCR検査を行うというハードルは高いと言わざるを得ません。ワクチン接種開始もいつになるか不透明な今、他国の行っている新型コロナウイルス対策を取り入れていく時に来ているのではないでしょうか。 

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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