リオ五輪で金メダリストとなった高橋礼華(奥)と松友美佐紀(手前) (c)朝日新聞社
リオ五輪で金メダリストとなった高橋礼華(奥)と松友美佐紀(手前) (c)朝日新聞社

 日本バドミントン界初となる金メダルを『タカマツペア』(ダブルス・パートナーは松友美佐紀)として2016年リオデジャネイロ五輪で獲得した高橋礼華。2度目の五輪出場を目指し、2020年3月まで東京五輪代表レースに挑んでいたが、五輪開催延期の決定を受けて現役引退を決意。「ここでやめたら『逃げた』と思われるかもしれないけれど、私自身はやりきった」と8月の引退会見で語り、昨年末には結婚を報告した。めまぐるしい1年を経て、高橋が改めて振り返る現役生活とはどんなものだったのか? 金メダルを獲得した強さの裏側に存在していたもの、コートを離れて垣間見えた横顔を追った。

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 高橋の名が一躍世間に広まったきっかけは、2016年リオデジャネイロオリンピック決勝戦の大逆転劇だろう。デンマークとの最終セット16―19という崖っぷちからの勝利。その瞬間、床に倒れ込んだ高橋の姿は印象的だった。逆転の引き金になったのは何だったのろうか。

「16-19になった時、ふとレスリングの伊調(馨)さんのことを思い出しました。選手村で決勝戦の前日に伊調さんが残り4秒の大逆転で金メダルを獲った試合を見たんです。大舞台でこうやって勝てたらヒロインになれるんだなって思っていました。その光景を試合中に思い出して、伊調さんはこういう場面から勝ったんだなと。ここで逆転したら私もヒーローになれるかも、1点ずつ行こうと……。18-19になった時、相手の顔を見たら引きつっていたので、とにかく攻めることだけ考えて気づいたら21点になっていました」

 この戦いを制し、高橋は一夜にして念願のヒロインになった。その強さの裏側にあったのは強靭なメンタル。しかし当の本人は「メンタルが特別に強いと思ったことはないし、ただ当たり前のことを積み重ねてきただけ」と話す。どうやら強さの秘密は、この「当たり前」の裏に隠れていそうだ。

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貫き通した金メダルへの思い