甘露寺蜜璃というキャラクターは、女性が「自分のままであること」、とりわけ「強いこと」に対する、社会の目の冷たさと、そこからの脱却を示す存在として描かれている。彼女もまた「自分の生」を全うするために懸命に戦った。作者の吾峠呼世晴氏が女性であると言われるのは、こうした蜜璃の描かれ方も関係しているだろう。

■2人の戦いの女神(ミューズ)

 しのぶは自分の幸せを捨て、一貫して「あだ討ち」に心血を注ぎ続けた。それに対して、蜜璃は、「柱」としての責務を全うしながら、「愛する人を得る」という夢を実現した。この2人の違いは、入隊の動機の違いによって起きたもので、どちらの行動も尊く、物語を展開する上でも「必然」だった。  

 甘露寺蜜璃と胡蝶しのぶは、「鬼のいない平和な世の中」のために、その身をささげた、戦いの女神である。胡蝶しのぶは、小柄な女性という体格を克服するために、苦痛とともに自分の肉体を変化させていくことを選択した。甘露寺蜜璃は、女性という抑圧から脱却し、人々のために戦い続ける道を選択した。この2人の女神によって、鬼殺隊は、本来なら互角に戦うことすら困難な強大な敵・鬼を撃破していく。彼女たちの願った平和な世は、彼女たちの強靭な意思によって実現へと向かっていくのだった。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』『はじまりが見える世界の神話』がある。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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