一方の蜜璃はどうか。

<甘露寺さんは なぜ鬼殺隊に入ったんですか?>(12巻 第101話「内緒話」)  

 炭治郎が蜜璃に問いかけた時、蜜璃は「添い遂げる殿方を見つけるためなの!!」と答える。隊員たちは、いずれも「鬼殺に残りの人生をささげざるを得ない」、深刻で壮絶な過去を持っているため、炭治郎も読者たちも、蜜璃の明るい様子にあぜんとする。では、蜜璃は本当に能天気なだけの人物なのだろうか。

■蜜璃はなぜ鬼滅の刃を振るい続けたのか

<今度また 生きて会えるかわからないけど 頑張りましょうね>(12巻 第101話「内緒話」)  

 これは蜜璃が炭治郎にかけたセリフで、ここからも、蜜璃が「鬼狩り=死」を覚悟していることがうかがえる。ここで、もう一度、蜜璃が鬼殺隊に入隊した理由を確認したい。

<いっぱい食べるのも力が強いのも 髪の毛も全部私なのに 私は私じゃない振りをするの? 私が私のままできること 人の役に立てることがあるんじゃないかな? 私のままの私がいられる場所って この世にないの? 私のこと好きになってくれる人はいないの?>(14巻 第123話「甘露寺蜜璃の走馬灯」)  

 常人よりも強い蜜璃は、「女性」というイメージを押し付けられるという抑圧を受けた後に、そこから脱却するために剣士になる。蜜璃は、自分の家族からは愛され、理解も得ているため、「戦いの理由」の必然性が、一見するとわかりづらい。しかも、蜜璃の家族は誰も鬼には殺害されていない。

 しかし、その命を戦闘にささげることになるほど、蜜璃は「自分という存在」を否定されることに苦しんできた。彼女の苦悩を、決して「そんなことぐらいで」と矮小化すべきではない。入隊までに、彼女が男性から受けてきたさげすみの言葉、これは「蜜璃の生」の否定であった。結果として、彼女は、か弱き他者のために自らをささげることを「生きる道」に選んだ。これは彼女の師である炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)の教えと違わない。自らの命を賭してか弱き者を守る――蜜璃もまた、しのぶとは異なる形の「女神」なのだ。  

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物語で必要だった2人の女性キャラクター