「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」公式パンフレットより
「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」公式パンフレットより

 映画興収300億を超える大ヒットとなった「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」。この映画の大きな魅力のひとつは、声優たちの「声の表現」の素晴らしさと、登場人物たちから発せられる名言、語り口の妙だろう。それは、主人公たち「人間」に限らない。敵対する「鬼」たちにもまた、名ゼリフがあり、観る者を魅了する。ここでは、「お前も鬼にならないか?」のシーンで強烈なインパクトを残した、鬼・猗窩座(あかざ)のセリフとモノローグから「鬼」の魅力を考察する。(※以下の記事には、「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」と、コミックス18巻までのネタバレが含まれます。) 

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■矛盾だらけの猗窩座のセリフ

『鬼滅の刃』の好きなキャラクター人気投票でも名前が挙がり、熱烈なファンも多い「上弦の参」の鬼・猗窩座。彼が持つ強さへの希求、強さへの敬意、戦いの中に自分の本質を見いだそうとするその姿は、まさに『週刊少年ジャンプ』らしい、王道キャラクターでもある。ただ、そんなバトルキャラクターでありながら、心の奥底では失った婚約者への純粋な愛を抱き続ける。このような猗窩座の姿は、男性だけでなく、女性や子どもにも受け入れられ、原作ファンの支持も高い。

 しかし、猗窩座の初登場シーンから炎柱・煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)との戦闘を終えるまでの間を見返すと、彼のセリフに多くの「矛盾」があることが目につく。猗窩座は、煉獄杏寿郎と対峙した時、「お前も鬼にならないか?」というあの名ゼリフの後に、「鬼になることの必要性」について説明する。

<杏寿郎 なぜお前が 至高の領域に踏み入れないのか 教えてやろう 人間だからだ 老いるからだ 死ぬからだ>(第8巻 63話「猗窩座」)

 このシーン以降、猗窩座は、鬼にさえなれば、強さを極めるために、長い年月をひたすら肉体の鍛錬に費やすことができるのだと煉獄を誘う。そして、「最高の強さを手に入れ、至高の領域に到達することができる」ことを、無上の喜びのように語る。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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猗窩座が語る「弱者」とは