スティリアーノ氏はその好例として、ロックダウンの際に病院内にファーストクラス用のラウンジを設営した航空会社、ジェットブルー航空を挙げる。


「彼らは病院にラウンジをつくることで、医療従事者にくつろぎを提供し、それは話題を呼んで、企業名をポジティブなイメージと結びつけることに成功しました」

 なかには政府と協定を結び、無料で貧困家庭に食事をデリバリーする社会貢献活動を始めたトラックメーカーもあった。ポストコロナをにらんだイメージ戦略である。

■思い切った投資でプロダクトや顧客体験を一新しよう

 マトリクスの右下は、「アクセスは制限されているが、購買意欲は存在している」ケース。たとえばミシュランの星付きレストランは、コロナ禍で営業できないとしても、潜在需要は存在する。多くの人が「おいしいものを食べたい」という願いをもっているからだ。

「そうしたケースでは、デリバリーサービスを充実させ、顧客に料理にまつわるこれまでなかったような体験を提供するといった工夫で、ビジネスモデルを多様化していきます。経営リソースの8割を使ってこれまで通りのやり方を維持する一方で、それとは別に、少数のチームを複数つくって、新しいモデルにチャレンジしていくのです」

 マトリクスの左上、「アクセス制限はないが、購買意欲が減少している」ケースは、もっとも対応が困難だ。たとえばパンデミックに起因する消費者の節約志向で売れなくなってしまったラグジュアリー製品の販売などがここに相当する。

「営業しているのにお客が来ない、制限はないのに売れないという状況は、先に希望が見えず、つらいものです。これを逆転するためには、思い切ってマーケティングに投資し、プロダクトや顧客体験を一新するような手を打たなければならないでしょう」

 つまり、経営モデルは変えなくてもよいが、これまでとは異なる収入減を生み出す必要があるということだ。
 
 いずれのポジショニングにいる企業に対しても、スティリアーノ氏は「新しい目で世界を見なければならない」と強調する。コロナだからといって怯えずに、積極的にマーケティングに投資を続け、嵐に立ち向かっていこうという呼びかけである。古代ローマの政治家を思わせるような、聞き手の心に雄弁に訴えかける講演だった。(文/久保田正志)