こうした状況におけるリテーラーの一般的な反応は「恐怖(FEAR)」だという。

 しかしながら、恐怖という本能に身を任せてはいけない――と、スティリアーノ氏は説く。「私たちは自らの本能に逆らい、逃げたい気持ちを押さえて立ち上がらなければなりません」と、その呼びかけは力強い。

 ではリテーラーは、どのようにしてコロナ禍に立ち向かえばよいのだろうか。

■コロナ禍での企業の4つのポジションとは

 その第一歩として、スティリアーノ氏は図1のようなマトリクスを提示する。縦軸にクライアントへのアクセス(Access to Customers)、横軸にクライアントの購買意欲(Purchase Intent)をプロットし、企業をパンデミック下で置かれたポジションで大きく4つの象限に分ける。講演では、この4つのポジションに合わせて具合的な対策が提案されていった。

 もっとも条件がいいのは右上のポジションだ。すなわちクライアントへのアクセスは良好なまま、かつクライアントの購買意欲も良好である、という業種。これには通販業者やコンテンツ・プロバイダー、デリバリーサービスなどが相当する。こうした業種はコロナ禍にあっても業績好調だ。

「こうした企業は『何もしなくても売れるのだから、別にマーケティングに力を入れなくても』と考えがちですが、それは間違っています。直感に反して、今こそマーケティングへの投資額を2倍に引き上げるべきなのです。なぜなら今の需要はパンデミックによる一時的なもので、何もしなければやがてまた落ちてしまうからです。しかし、このチャンスをうまく利用し、コロナ禍の期間中に増えた顧客との感情的な結びつきをしっかり強化しておけば、ポストコロナの時代にも今の好調を維持できるのです」(スティリアーノ氏)

 まったく逆に、顧客へのアクセスの制限が大きく、顧客の購買意欲は消滅してしまった業種もある。マトリクスでいうと左下にあたる。たとえば航空会社である。たとえ営業していても、客は新型コロナ感染を恐れて飛行機に乗ろうとしない。

「こうした企業にとっては、パンデミックによる制限の下でも、既存の顧客との感情的な絆を保ち続けることが重要です」

次のページ