【図1】スティリアーノ氏が提示したマトリクス。縦軸がクライアントへのアクセス(Access to Customers)が制限されているか否か、横軸はクライアントの購買意欲(Purchase Intent)が高いか低いかを示す。「ワールドマーケティングサミットオンライン」(https://e-wms.jp/)の講演スライドより
【図1】スティリアーノ氏が提示したマトリクス。縦軸がクライアントへのアクセス(Access to Customers)が制限されているか否か、横軸はクライアントの購買意欲(Purchase Intent)が高いか低いかを示す。「ワールドマーケティングサミットオンライン」(https://e-wms.jp/)の講演スライドより

 世界のトップ・マーケターがオンライン上で一堂に会した「ワールド マーケティング サミット オンライン(eWMS)」。総勢80名の登壇者のなかで「次世代のマーケティング・リーダー」の一人として注目されたのが、イタリアのマーケティング会社ワンダーマン・トンプソン社でCEOを務めるジュゼッペ・スティリアーノ氏だ。フィリップ・コトラー教授との共著で『コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則』(朝日新聞出版)を上梓。eWMSではリテール4.0での議論を一歩進め、「ポスト・パンデミック時代のリテールマーケティング」について力強い提案を行った。

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■ポスト・パンデミック時代のリテール論

 リテールとは、マーケティングの4つのP、具体的には「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販売促進)」のうちの「Place」に相当する、マーケティングの一分野である。

 ただし今日ではメーカーもEC等を通じて消費者に対してダイレクトに商品を販売することが普通になっており、小売業=リテールとのみ定義づけできない時代になっている。そのような時代背景から、『コトラーのリテール4.0』は消費者と結びつくすべての企業を対象に、最終的な販売、売上が実現される局面に研究対象を絞り込んだ販売戦略論が展開された。

 今回の講演でも、スティリアーノ氏が論じたのはあらゆる企業に向けた「ポスト・パンデミック時代のリテールマーケティングについて」だ。コロナ禍を意識したマーケティング論という点ではコトラー教授と同様ではあったが、その中でもリテールに的を絞って展開されていた。

 スティリアーノ氏は「我々は今、最悪の嵐(パーフェクト・ストーム)を通り抜けている最中であり、そこにおいてはリテールビジネスそのものが非日常行為になっています」と指摘する。「多くの伝統的小売業にとって、近年のデジタル化は大きなプレッシャーになっていました。しかしコロナ禍により社会のデジタル化は加速し、小売業者にとってはそれでなくともきびしかったデジタル化の要請が一段ときつくなっています」

 世界的な不況は、過去にもしばしば発生してきた。「不況は通常、9.11のような突発的事件による節約志向の高まり、それによる需要の縮小や、石油価格の急上昇といった供給側の問題、あるいはリーマンショックのような金融的要因によって発生します。しかしパンデミックは需要と供給の両サイドに加え、金融市場にも問題を引き起こしています」

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