ちなみに、この曲のオリジナルは来生たかおによる「夢の途中」。この映画の主題歌にも内定していたが、結局、薬師丸が歌うことになり、最終的には角川の指示でタイトルも映画と同じものに変更されたという。まさに、スターシステムの映画ならではのエピソードだ。

 その後も、角川三人娘の映画主題歌ではこうした映画タイトルと曲名の連動性が保たれ「探偵物語」「メイン・テーマ」(ともに薬師丸)「時をかける少女」「愛情物語」(ともに原田)といったヒット曲が生まれていく。渡辺が「晴れ、ときどき殺人」に主演したときはどうするのだろうと思ったら、主題歌のタイトルを「晴れ、ときどき殺人(キル・ミー)」にすることで乗り切った。このタイトルはそのままサビでも歌われるが、なかなかシュールな趣である。

 そんなスターシステムへのこだわりは、角川自身の彼女たちへの愛情のあらわれでもあった。今回の「みをつくし料理帖」のパンフレットに掲載されているインタビューでも、ヒロイン役の松本穂香を「穂香」と呼び捨てしているように、彼は女優を自分の娘のようにかわいがり、ときには厳しく教育した。つまり、角川三人娘とは文字通り「角川」の「三人」の「娘」たちだったのだ。

 そして、父親というのは常に娘のファンだから、角川は彼女たちをファンの気持ちで描くことができた。こういう感性はおそらく、男性アイドルにおけるジャニー喜多川とも通じるものだ。前出のインタビューにも、興味深い話が出て来る。ヒロインが花魁となった親友・野江と最後に運命的な再会をする場面で、その親友がヒロインに素顔を見せるべきかどうか、演者やスタッフとのあいだで議論になった際、角川は「一般の観客は、野江の素顔を見たいはずだと説得」したという。そして、こんな感想を明かしている。

「撮影当日、ゆっくりと面を外した時の、複雑な笑顔にはゾクッとしました」

 また、前出の「サワコの朝」では映画「時をかける少女」について角川がポケットマネーで作ったというエピソードが原田によって語られ、ネットニュースでも話題になった。かわいい娘のためならば、そこまでするのが父親なのだ。

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女優と歌手の“二股”が強みに