この年の阪神は、4番打者として打率2割7分8厘、28本塁打、85打点の成績を残した新庄剛志がメッツへの移籍を決め、12月11日に野崎勝義球団専務に退団を申し入れていた。

“ポスト新庄”は誰か?阪神ファンの間でも次代のスター候補について激論が交わされているさ中、同14日に行われた新人8選手の入団発表で、まさかの仰天発言が飛び出した。

 新人の中でもさほど目立った存在ではなかった赤星が「新庄選手の穴は、僕が埋めます」とキッパリ宣言したのだ。

 確かにポジションは新庄と同じセンターだが、170センチ、68キロと小柄で、「体が小さいから」という理由で、高校、大学とプロから声がかからなかった男が、いきなり新庄の後継者に名乗りを挙げたのは、ビッグマウスと思われても仕方がなかった。

 会場からは大きなどよめきが起き、翌日のスポーツ紙もこの発言を大きく取り上げた。この結果、ドラ1右腕・藤田太陽の扱いが小さくなるという逆転現象も起きた。

 だが、赤星の足を高く買っていた野村克也監督は「新庄の肩の強さは、赤星の足で埋められるでしょう。打撃?新庄レベルなら、誰でも埋めます」とフォローした。入団会見の前に赤星に「ポジションはどこや?」と尋ね、「センターです」と答えると、「ちょうど空いてるから良かったな」と励ましたというエピソードもある。

 そして、赤星は野村監督の期待に応える。努力の末、開幕1軍入りをはたすと、2番に定着し、打率2割9分2厘、39盗塁で新人王と盗塁王を獲得。星野仙一監督時代の03年にも、9月15日の広島戦で18年ぶりの優勝を決めるサヨナラ打を放つなど、結果的に新庄の穴を埋めてお釣りの来るほどの名選手になったのは、周知のとおりだ。

 実は、入団発表の席で、赤星は「新庄さんの穴を少しでも埋められるように頑張ります」と言うつもりだったのだが、緊張のあまり言葉に詰まり、「穴を埋めます」になってしまったという。

 自分の発言に恥じないよう懸命に努力したことが、“赤い彗星”誕生につながったという意味でも、まさに野球人生を切り開いた“言い間違え”だった。

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今季限りで引退“あの選手”も…