施設経営者のなかには、「本音は何回か採卵してから『卒業』(=陽性判定が出た後、産科へ転院すること)してもらいたい」と言う医師や、「患者の気持ちを傷つけると評判が落ちるから、できることなら初診時に厳しい数字(妊娠率)を見せたくない」と考える医師もいるという。

 このように、患者は「治療をやめるべき」とはっきりアドバイスされることがないのが現状だ。

 結果、経済的な限界が治療を断念する理由となるケースも多かった。不妊治療に保険が適用されて安価で受けられるようになると、延々とやめられなくなることを不安視する声もある。

 患者の決断をサポートするのは、医師の役目ではないのだろうか。不妊治療の「やめどき」について、小柳医師はこう話す。

「率直に説明しても、治療の終結を決断できる患者さんばかりではありませんが、医学的には、体外受精で良好な胚が育たなくなればやめどきと言えます」

 現実的な妊娠率をみてみると、小柳医師の勤めるクリニックでは、38歳以下の体外受精では85%の患者が妊娠・出産に至っているのに対して、40代ではその割合は20%未満まで下がってしまう。また、40代で陽性判定がでてクリニックを「卒業」できた患者のうち、9割近くが「3回までの採卵」で妊娠に至っていた。

「このことから、38歳から40歳にかけてのわずか2、3年が、運命の分かれ道で、これを超えないうちに治療を始めることが重要です。また、40代では『採卵3回』がやめどきの目安と言えると思います」(小柳医師)

 また、保険適用について、小柳医師は、「医学的な可能性に基づいて不妊治療の枠組みをつくることは、妊娠につながる治療を促す一定の効果がある」としたうえで、「欧米のように年齢と回数に制限を設けるべき」と主張する。

 フランスでは体外受精への保険適用は「42歳以下4回まで」、ドイツでは「40歳以下3回まで」と、年齢や回数が制限されている。

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