※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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小柳由利子医師/産婦人科医、不妊治療医。2006年福島県立医科大学医学部卒業後、町田市民病院、木場公園クリニック、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、2015年から東京HARTクリニック勤務。医学博士。妊活・不妊治療に関する知識の啓発に取り組む。
小柳由利子医師/産婦人科医、不妊治療医。2006年福島県立医科大学医学部卒業後、町田市民病院、木場公園クリニック、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、2015年から東京HARTクリニック勤務。医学博士。妊活・不妊治療に関する知識の啓発に取り組む。

 不妊治療をめぐって、菅内閣は、保険適用拡大までの支援策として、今の助成金制度を来年4月から拡充する方向だ。高額な費用を払っても必ず妊娠できるとは限らない不妊治療は、「出口の見えないトンネル」ともいわれる。国の支援策が患者から歓迎される一方で、営利を優先する治療施設の実態を訴える声も聞こえてくる。

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 私も抱いてみたい――。東京都内に住む不妊治療中の女性(37)は、赤ちゃんを抱いて歩く夫婦をみるたびに胸が締めつけられる。3回目の転院先で体外受精に挑戦。受精卵を子宮内に移植したが、着床しなかった。これまでの費用は150万円。「夫とここまでと決めていた金額だけど、あきらめられない。あと1回採卵したい」と考えている。

 不妊に悩む人を支えるNPO法人「Fine(ファイン)」のアンケート調査(2018年)によると、通院開始からの治療費総額が100万円以上の割合は56%に上り、300万円以上払っている人も増加傾向にあるという。

 背景には、重い費用負担に悩みながらも治療をやめる決心がつかない患者と、患者が希望する限り治療を続けてしまう治療施設の営利主義がある。

 日本には約600の不妊治療施設があるが、その多くは都心部に集中し、業界では患者の獲得争いが起きている。不妊治療専門の東京HARTクリニック(東京都港区)に勤める小柳由利子医師は、「自由診療である不妊治療は、医療というよりビジネスに近い」と言う。

「確かに不妊治療は、高度な治療設備や、培養士など専門性の高いスタッフが必要なためにコストがかかります。しかし、その負担が患者に集中し、患者目線での治療が行われているとは言いにくい。業界の一部では、できるだけ薬を使わずに治療費を抑えたい患者側と、できればしばらく通ってから妊娠してほしい施設経営者側の思惑が一致して、エビデンスに乏しい非効率な治療が蔓延しています。欧米のように、各施設の治療成績を国や第三者が管理するシステムを作り、妊娠したい患者さん側の利益と、施設側の利益が相反している今の状態を改善すべきです」

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治療のやめどきをはっきりアドバイスされないのが現状