加藤氏 これまでの首相としての政治生活を、反省的な目で振り返ってほしいです。自分なりに総括したうえで「こういうことはやってはいけない」という知恵を次の人たちに伝える義務があるのではないでしょうか。トランプ大統領から古い戦闘機を押し付けられても買ってはいけない、消費税を上げないことを争点にして解散総選挙をやってはいけない、私利私欲で花見の会を開いてはいけない、品位に関わるので国会ではヤジを飛ばしてはいけない……そういう当たり前のことです。

 でも今、報道などで伝わってくる安倍さんの思いは「石破(茂・元幹事長)さんを次期首相にはさせたくない」という執念だけ。やはりまだ権力への志向性が強く、敵をやっつけることが好きな性格が抜けないのだと思います。

 ドイツの思想家・哲学者のカール・シュミットが、政治的な行動の基準となる二項対立を「友」と「敵」に置いたように、それも1つの政治哲学ではあります。しかし、利害配分や言葉による説得などを用いることで敵を中立者に変え、中立者を味方に変えていくのもまた政治です。紛争の解決が政治の目的だと言われますが、紛争を起こさない解決を目指すことも政治の役割です。このあたりは、政治思想史学者の丸山真男の著書に詳しく書いてあります。安倍さんも首相を辞めたら、前よりは時間があるだろうから、ぜひ丸山真男を読んで勉強してもらいたいですね(笑)。(構成=AERAdot.編集部・作田裕史)