こういった状況に危機感を持った医師たちで集まり、私たちは昨年、一般社団法人医療リテラシー研究所を設立しました。主な活動の場はインターネット、特にSNSです。

 SNSは間違った医療情報がバズりやすい傾向があります。後に専門家が訂正したコメントを追加したとしても、最初のバズには及びません。間違ったまま情報が拡散してしまい、修正がきかないことが多々あります。根本的にはプラットフォーム側が、間違った医療情報に関してなんらかの制限をかけない限り解決しない問題です。私たち医療の専門家としては、間違った医療情報が安易に拡散しないように、また鵜呑みにしないように草の根的に一般の方の医療リテラシーを上げていくしかないと考えています。

 医療リテラシーを上げるために私たちが行っている活動の一つが「SNS医療のカタチ」です。現在、ツイッター、ブログ、YouTubeとプラットフォームを変え医療情報を発信しています。目標とするのが「知識のワクチン」。プラットフォームが今後また増えたとき、新しく活動の場を広げていけば無限の労力が必要です。どんな媒体からの情報でも、適切な医療情報を見分ける力を育て、いざというときに「間違った医療情報に感染しない」医療リテラシーを多くの方に届けたいと考えています。

 そうはいっても、病院は好きじゃないし医者の言うことは信用できない、と考えている方が一定数いることも理解しています。医者と患者がコミュニケーションを取って、一緒に治療に取り組めるように、今年の夏はインターネットテレビ番組を配信しました。医療における「やさしさ」について角度を変えさまざまな方にお話を聞く7時間番組は、YouTubeで無料で公開しています。Twitterでは「#やさしい医療」で検索すると視聴された方の感想が出てきます。多くの方に見ていただければ幸いです。

 間違った医療情報に飛びつく背景には医療不信の問題があったり、また医療を受ける側にも改善すべきところはありそうです。システムと心の問題が複雑に絡み合って、医療におけるコミュニケーションエラーは発生しているように思います。私は「SNS医療のカタチ」の活動を通して、医療を取り巻く環境を良いものにしていきたいと考えています。病気や病院に全く関わりのない健康な人にこそ、ぜひ「SNS医療のカタチ」を見ていただきたい。医療リテラシーは病気になる前に上げておくことが重要です。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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