※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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自治医科大学病院消化器一般移植外科部門教授 排便機能外来味村俊樹(みむら・としき)医師
自治医科大学病院消化器一般移植外科部門教授 排便機能外来
味村俊樹(みむら・としき)医師

 便失禁は、知らないうちに、あるいは意思に反して便が漏れる、トイレまで間に合わないなどの症状を指す。便失禁に悩む人の推定数は、約500万人。これは寝たきりや施設入所などで排便の介護を受けている人を除いての数なので、普通に社会生活を送っている人のなかにも症状を抱える人が多くいるということになる。2017年の「便失禁診療ガイドライン」作成を機に、便失禁を専門的に診る「排便機能外来」の開設が進んでいる。排便機能外来ではどのような診察・治療がおこなわれているのだろうか。

【写真】排便機能外来を担当している味村俊樹医師

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 便失禁の大きな要因として、加齢による、肛門を締めている内肛門括約筋や外肛門括約筋の機能低下が挙げられる。60代以降で患者数が増えるのもこのためだ。とくに加齢によるものは内肛門括約筋の機能低下が大きい。内肛門括約筋は意思と関係なく肛門を締めている。そのため知らないあいだに便が漏れる「漏出性便失禁」が多い。

 一方、20~40代の女性(経産婦)に多いのが、分娩時に肛門括約筋や周囲の神経が損傷を受けたことが原因になるものだ。この場合は、自分の意思で締められる外肛門括約筋も損傷を受けることが多く、便意を感じるとがまんできない、トイレまでもたない「切迫性便失禁」という症状が起こる。しかし分娩後1年程度で、症状は改善することが多い。

 そのほか、腸管や肛門の手術の既往、事故などによる脊髄損傷、炎症性腸疾患などによる慢性的な便通異常などが便失禁の原因になることもある。多くはいくつかの要因が重なって症状があらわれる。

 自治医科大学病院消化器一般移植外科部門教授で、排便機能外来を担当している味村俊樹医師は次のように話す。

「便失禁は、60代以上の加齢による内肛門括約筋の機能低下が約5割を占め、分娩による障害は約1割くらいです。疫学的な調査では男性と女性の比率は同じくらいですが、排便外来を訪れるのは女性が7割、男性3割で女性のほうが多いです」

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便失禁は患者の生活の質を著しく低下させる