骨盤底筋とは、いくつかの筋肉が重なり合って、骨盤の底をハンモックのように支えている筋肉群だ。肛門や尿道、腟などが位置する骨盤の底に開いた孔(あな)から、内臓が下がっていかないようにしている。尿失禁の改善法として注目されている骨盤底筋訓練だが、骨盤底筋訓練では肛門括約筋も訓練できることから便失禁の改善にも有効で、便失禁ではとくに切迫性便失禁で効果が見込まれる。

 便失禁でのバイオフィードバック療法は、肛門筋電計や肛門内圧計などの専用の機器を用いて肛門括約筋の筋力を検査・診断し、さらに訓練後の評価などを、数値や画像で示していわば“見える化”して評価・治療に役立てる。肛門筋電計を用いたものでは、まず正しく肛門を締められているかテストする。

「肛門を締めているつもりでも、腹筋に力を入れているだけの人も多く、かえっていきむ形になることもあって便漏れを促してしまうこともあります。まず、腹筋に力を入れずに肛門を上手に締める方法を習得してもらうことから始めます」(同)

 そのうえで、(1)肛門をできるだけ強く収縮させる「最強収縮訓練」(5秒収縮・10秒弛緩)、(2)最強の半分くらいの力でできるだけ長く収縮し続ける「持続収縮訓練」(10~15秒収縮・10秒弛緩)、(3)収縮と弛緩を素早く繰り返す「クイック収縮訓練」を指導してもらう。コツを覚えたら、(1)~(3)をそれぞれ10回ずつ合計30回を1セットとし、1日5~10セットを目標として自宅で毎日おこなう。ジムでの筋トレと同じように、毎日継続することが重要だ。

「正しく訓練を続ければ、切迫性便失禁の場合は約7割の人で症状の改善がみられます。病院でバイオフィードバック療法の指導を受けられる期間は、月に1回の通院で計5回程度、つまり約半年間ですが、指導の終了後も自宅で骨盤底筋訓練を継続することが大切です。そうすれば、便失禁の改善のみならず、将来発症するかもしれない尿失禁や、女性の場合は子宮脱の予防にもなり、一石二鳥です」(同)

 漏出性便失禁では内肛門括約筋の機能低下が多いため、切迫性便失禁のタイプほど効果が上がらないこともあるが、それでも約4~5割に効果がみられるという。以上のような保存的療法で効果がみられない場合は、外科治療が考慮されることもある。(文・別所文)