便失禁はだれにも相談できずに悩んでいる人が多い。便が漏れることをおそれて外出できない、においが気になって人と会えなくなった、家族に知られてイヤがられているなど、患者のQOL(生活の質)は著しく低下してしまう。働き盛りの若い世代での発症は、さらに深刻だ。高齢者が勇気を出してかかりつけ医に相談しても、加齢によるものだから仕方がないと言われるケースも多かったという。

「17年に診療ガイドラインを作成したことで、便失禁は治療の対象となる疾患だという認識が、医師の間でも広まったと思います」(味村医師)

 では、排便機能外来ではどのような専門的な診断・治療がおこなわれるのだろうか。
 
 初診時は、詳しい問診から始まる。いつから始まったか、どのようなときに便がどれくらい漏れるか、漏れについての自覚はあるか、排便をある程度我慢できるか、便失禁の頻度、普段の便の状態(硬さ・量など)、女性の場合の分娩歴などに加えて、トイレの環境、日常生活の様子、嗜好品などを聞く。

 問診で、肛門のどの部分に異常があって便失禁が起こるのかがおおよそ推定・診断できるという。大腸や肛門などにほかの病気がないかの鑑別診断もおこなわれる。

 症状が軽度であれば、この段階でまず、薬を用いて改善を試みる。便の水分量を調節する働きをもつポリカルボフィルカルシウムが中心になる。便失禁の人は軟便の傾向が強いので、止瀉薬(ししゃやく、下痢を止める薬)のロペラミドを内服する場合もある。薬を用いるだけで約5割の人で症状の改善がみられるという。

「便秘薬を日常的に服用している患者さんではその使い方をチェックして、正しく用いるようにしてもらいます。さらに食物繊維を積極的にとること、アルコールや香辛料、カフェインなどの便をやわらかくしがちな食材を控えることなど、食生活の見直しも勧められます」(同)

 薬だけでは効果が感じられない場合は、骨盤底筋訓練のための「バイオフィードバック療法」を考慮する。
 

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骨盤底筋訓練はジムでの筋トレ同様、毎日継続が重要