また、過去に発表された糖尿病患者に歯周病の治療をした数多くの研究結果を解析したところ、「歯周病治療で改善するHbA1cは約0・4%」と報告されており、重度の歯周病の人がしっかり治療を受ければ血糖値が下がる可能性を示しています。

 糖尿病と合併症については、HbA1cを1%改善すると糖尿病関連死のリスクが21%、心不全が16%、心筋梗塞が14%、脳卒中が14%、微小血管障害が43%、末梢神経障害など細い血管の病気による手足の切断が37%予防できるとされています。

■関節リウマチ

 関節リウマチは自己免疫疾患の一つで、関節の滑膜という部分に炎症が起こり、「こわばり」「痛み」「腫れ」が生じる病気です。自己免疫疾患とは、本来ならからだに入ってきた異物を排除する免疫系が何らかの原因により、自分自身の細胞やタンパク質を異物ととらえて攻撃し、それによって起こる病気の総称です。関節リウマチの場合は攻撃が滑膜に起こり、進行すると骨や関節を破壊するのです。ただし、なぜこのようなことが起こるのか、明らかな原因はわかっていません。

 歯周病とリウマチに関する多数の研究報告を分析した調査で、関節リウマチの人たちはそうでない人たちに比べ、歯周ポケットの深さが1・17倍、歯の喪失は2・38倍、高いことが報告されています。一方、中等度、重度の歯周病患者は健常者と比べ、関節リウマチのリスクが高いことがわかっています。

 実は歯周病と関節リウマチの病因、病態には共通点が多いのです。

 いずれも患部に慢性的な炎症が起こっており、炎症性サイトカインや骨を壊す細胞が組織破壊を引き起こします。また、発症には遺伝的要因もあり、環境要因の喫煙が発症と悪化の要因という点も同じで、歯周病と関節リウマチに双方向の関係がある可能性があります。

 また、歯周病の患者さんは手指の機能障害のためにプラークコントロールが困難であることや、関節リウマチの治療薬で免疫力が低下し、それによる感染のしやすさから歯周病を併発しやすいこともあります。

 一方で、歯周病治療によって関節リウマチの病状が改善したという報告が、複数あります。歯周病治療により関節リウマチにかかわりが深いとされるシトルリンというアミノ酸の血清中の濃度や、P.g菌に対する血清抗体価が減ることなどが確認されています。

※『続・日本人はこうして歯を失っていく』より

≪著者紹介≫
日本歯周病学会
1958年設立の学術団体。会員総数は11,739名(2020年3月)。会員は大学の歯周病学関連の臨床・基礎講座および開業医、歯科衛生士が主である。厚労省の承認した専門医・認定医、認定歯科衛生士制度を設け、2004年度からはNPO法人として、より公益性の高い活動をめざしている。

日本臨床歯周病学会
1983年に「臨床歯周病談話会」としての発足。現在は、著名な歯周治療の臨床医をはじめ、大半の会員が臨床歯科医師、歯科衛生士からなるユニークな存在の学会。4,772名(2020年3月)の会員を擁し、学術研修会の開催や学会誌の発行、市民フォーラムの開催などの活動をおこない、アジアの臨床歯周病学をリードする。