■ハーゲンダッツかサーティワンか

 最近、特に心理的財布の存在にびっくりしたのは、「アイスクリームに関して」です。ハーゲンダッツは味が濃厚で高級感があり、大人のためのものというイメージを抱いていたので、小1になったばかりの息子にあげるのはなんだかもったいない、と思っていました。

 しかし、普段、息子と気軽にしょっちゅう食べているサーティワンのアイスを、フードコートが閉鎖されていたのでテイクアウトをして冷凍庫に入れたとき、ふと横にあるハーゲンダッツが目に入り……よくよく考えるとハーゲンダッツよりこちらのアイスのほうがずっとお高いことに気づいたのです。
 
 よく行くサーティワンのお店は、レギュラーサイズ一つで400円します。さらに、レギュラーだと1つの味しか選べないため、「値段もたった100円しか変わらないから」と、大体いつも500円のスモールダブルを頼んで食べていました。

 ハーゲンダッツは、正規の値段で約300円です。コンビニアイスの中に並べてあるとやや高めだと感じますが、サーティワンの隣に並べると、「意外に安いじゃないか!」と感じたのです。私は心の中で、勝手に、「サーティワンは子どもと食べるためのポップなアイス」というイメージを作り上げて、心理的財布からお金を出していたのでした。もちろん量の違いはあれども……まさかサーティワンのほうが高価なアイスだなんて考えたことはありませんでした。

 抹茶やバニラのようなオーソドックスな味はハーゲンダッツにあるので、今後サーティワンを買うときは、どうせなら「ポッピングシャワー」のようなその店にしかないものを選ぼうと決めました。さらに「サーティワン」ではなく、アメリカでの正式名称である「バスキン・ロビンス」と呼ぶことで、自分の脳内で少し高級ブランド感を高めておきました。

 このように、並べることによって心理的財布に意味が生まれてくることを「フレーミング効果」と呼ぶそうです。たとえば同じアイスの場合なら、100ミリのカップに80ミリ入っているより、50ミリのカップに70ミリ山盛りで入っていたほうが、視覚的にお得感が出てきたりもするわけです。

 それにしても、外食するときの心理的財布の緩み方は恐ろしいものです。今回のコロナ騒動で「テイクアウト」が増加したことにより、自分の中の心理的財布と物理的財布の乖離(かいり)について、何度も考えさせられました。

 大学生時代は、本1冊のために3000円なんて絶対に払わないくせに、たった2時間で終わる飲み会には簡単に何回も払っていたことなどを思い出したりして…… これは息子にも今のうちからしっかりと、「心理的財布」というものがあるのだと、曖昧(あいまい)な概念ではなく「言葉」としてきちんと意識させておかねばと思いました。
 
 感染防止のために、学校の遠隔授業や、病院の遠隔診療が急速に広まったように、普段は全くテイクアウトなど考えていなかった飲食店が、これを機会に始めていくようになれば、新たなるビジネス発展のきっかけにもなるかもしれません。

 その際、店側は「物」を売るのか、空間という「価値」を売るのかを考え、値段を考える必要が出てくることでしょう。そして私も、今後、コロナウイルス騒動により大きく変わってくるだろう経済状況に備えて、心理と物理、両方の財布のひもを引き締め、適切に使うべきところで考えて使わねば、と改めて誓ったのでした。

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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