■人間が持つ「心理的財布」とは?

 人間は、実際のお財布とは別に「心理的財布」と呼ばれるものを持っていると言われています。お金というと「絶対基準」であるもののような気がしますが、実際は同じ金額を出すとしても、同じものを買うにしても、そのときの心の持ちようで金銭感覚が変わってしまうのです。

 かつて、『100円のコーラを1000円で売る方法』という本がベストセラーになりました。ディスカウントストアだと缶コーラはたった50円で売っているというのに、高級ホテルのルームサービスで運ばれてくるコーラは、1000円以上もします。全く同じ商品でも、金額は20倍も違うのです。

 その理由は、前者は喉が渇いたから「液体として買う」、後者は優雅な空間でのんびり「心地よい体験を買う」といった気持ちでいるからであり、結果、心理的財布は、どちらも同様に満足できる買い物だと感じるそうです。
 
 ほかにも、スーパーだと牛乳の値段が数十円違うだけでどれを買おうか悩むのに、洋服を買うときは数千円の差でも気にならなくなる、なんて現象がおきます。さらに人は、同じ1万円でも「予期せず1万円をもらったとき」と「1万円を財布から落としたとき」を比べると、「1万円を落としたとき」のほうが、心理的なインパクトが大きいのだそうです。

 このように、利得よりも損失のほうが重大なことだと思い込んでしまう性質を、心理学では「損失回避バイアス」と呼び、マーケティングの戦略で使われているとのこと。
 
 パスタも、レストランという普段と違う「空間」で、彩りを奇麗に盛り付けられて食べるからこそ、心理的にしっくりくる値段だったのでしょう。同じ味で同じ量でも、それを家に持ち帰り、普段使っている食器に入れて食べてみると、いつもセットでついてくるはずの「空間」が欠けているために、心理的財布が混乱してしまったのです。
 
 もちろん今の時期のテイクアウトには、コロナウイルス対策に対する応援的な意味も含まれていますし、お店の味を家で食べられるのも新鮮かつ手軽ではあるので、今後も買うと思います。

 ただ、こうして飲食店のメニューをそのままテイクアウトする機会が格段に増えたことにより、自分の中の「心理的財布」に目を向ける回数が多くなってきたのは確かです。
 

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