山瀬のもう一つの持ち味が安定したキャッチングだ。昨年の選抜、春の北信越大会、夏の甲子園、U18W杯の合計18試合で山瀬が記録した捕逸(パスボール)は、サイン盗み騒動が大きな話題となった選抜の習志野戦だけである。奥川の制球力が高いということももちろんあるが、北信越大会では他の投手が起用されるシーンも多く、山瀬のキャッチングがいかに安定していたかがよく分かる数字である。実際、ミットが大きく動かず、ワンバウンドの処理も落ち着いている。プロではまだまだレベルアップの必要はあるものの、高校卒業時点では十分な力を持っていることは間違いない。

 その一方で課題となるのはバッティングだ。選抜では5番を打ち、2試合で8打数4安打を記録したが、それ以降は調子を落として下位打線を打つことが多かった。夏の甲子園では復調したものの、U18W杯では6打数ノーヒットに終わっている。好調時は下半身が安定し、しっかりボールを呼び込むことができるが、不調時は上体が突っ込んでフルスイングできないことが多い。高い守備力がありながらも、下位指名になったのはこのバッティングの評価が低かった影響が大きい。プロの高いレベルの変化球に対応するには、一からスイングの形を作り直す必要がありそうだ。

 巨人は現在、小林誠司、炭谷銀仁朗、大城卓三、岸田行倫という実力のある捕手が揃っているが、高校卒の生え抜き捕手は山瀬だけという状態である。更に捕手出身の阿部が二軍監督となったことで、山瀬にかかる期待は更に大きくなる。将来、山瀬が由来で慎之助という捕手が登場するくらいの存在になれるか。二代目慎之助の挑戦は始まったばかりだ。(文・西尾典文)

●西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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