山瀬慎之助は巨人の正捕手となれるか (c)朝日新聞社
山瀬慎之助は巨人の正捕手となれるか (c)朝日新聞社

 今年も多くのルーキーが話題となっているプロ野球だが、一人の捕手がにわかに話題となっている。星稜からドラフト5位で巨人に入団した山瀬慎之助だ。山瀬が生まれたのは2001年の5月で、名前は当時巨人のルーキーだった阿部慎之助が由来である。そしてその名前の由来となった阿部慎之助が昨年限りで現役を引退し、今年から二軍監督として山瀬を指導することになったのだから、縁というものを感じずにはいられない。キャンプでは早くも阿部二軍監督が山瀬を叱咤する姿が報道されている。

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 しかし山瀬はもちろん名前の話題性だけの選手ではない。奥川恭伸(ヤクルト)とは小学校時代からバッテリーを組み、宇ノ気中学では全国中学軟式野球選手権で優勝。星稜に進学後も1年秋から正捕手となり、4度の甲子園出場と3年夏の全国準優勝にも大きく貢献した。奥川が大舞台で見事なピッチングを披露できたのも、その裏には山瀬の存在があったからと言えるだろう。

 そんな山瀬の最大の魅力はプロでもトップクラスに入る強肩だ。昨年のドラフト会議では山瀬以外にも東妻純平(智弁和歌山→DeNA4位)、藤田健斗(中京学院大中京→阪神5位)、水上桂(明石商→楽天7位)が高卒の捕手として指名を受けている(育成指名は除く)。アマチュアの選手の場合、イニング間のセカンド送球で2.0秒を切れば強肩と言われるが、筆者が計測した彼らの最速タイムは以下の通りである。

山瀬:1.80秒
藤田:1.82秒
東妻:1.83秒
水上:1.88秒

 全員が1.9秒を切るタイムをマークしているのはさすがだが、その中でもナンバーワンのタイムを山瀬が叩き出している。また、1年秋から山瀬の出場した試合を現地で9試合見たが、そのうち6試合で1.8秒台のタイムをマークしていた。コンスタントにこれだけのタイムをマークする高校生はほとんどいない。また、昨年大学生、社会人から支配下でプロ入りした佐藤都志也(東洋大→ロッテ2位)、海野隆司(東海大→ソフトバンク2位)、郡司裕也(慶応大→中日4位)、柘植世那(Honda鈴鹿→西武5位)、石原貴規(天理大→広島5位)の最速タイムも並べてみると以下のようになっている(日本ハム6位の梅林優貴は現地でチェックできなかったため除外)。

海野:1.78秒
佐藤:1.87秒
柘植:1.90秒
石原:1.91秒
郡司:1.93秒

 山瀬のタイムを上回っているのは海野だけである。ちなみにこの海野のタイムはプロでもなかなか見られないものであり、山瀬の強肩がいかに高校生離れしたものであるかがよく分かるだろう。また山瀬の良さは実戦でも安定したボールを投げられるところだ。昨年8月に行われたU18日本代表と大学代表の壮行試合では試合途中からマスクをかぶり、6回には代走で出場した大学ジャパンでも屈指の脚力を誇る田中幹也(亜細亜大)の盗塁を見事な送球で阻止している。このスローイングには詰めかけた観衆からも大きな歓声があがっていた。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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山瀬の魅力は強肩だけではない!