さらに、私が外国人であることも拒絶されない理由の一つだと考えられます。ひきこもりというのは内にこもるイメージがありますが、私は「社会の外」という感覚があるのではと考えています。つまり、私のような外国人は「自分と同じ外の人間」として受け入れられるわけです。35年間、通院も訪問診療も拒否したある男性も、インターホンごしに「私は日本から来た専門家です。もしよかったら会えませんか」と言うと、「どうぞ」とドアを開けてくれました。

 精神病で妄想があるなら「自分は病気じゃない、会いたくない」と拒否されるでしょうけれど、ポジティブな概念であるひきこもりの専門家が来たとなると大歓迎。お茶やケーキを出してくれる人までいます。

 ひきこもりは空間的な問題と思われがちですが、社会的なつながりがないという意味なので、匿名の状態ならコンビニでジュースを買ったり、外出したりでき、「外こもり」と呼ばれるように旅行に行ける人もいます。それはどの国でも変わりません。今、フランスのひきこもりに人気なサービスは、ウーバーイーツです。24時間営業で、食料品や日用品を買って運んでくれサービスもあるので便利なんですよね。

 ひきこもりになる背景も違います。日本ではいじめや不登校、仕事の失敗などがきっかけになっていることが多く、フランスでは移民や失業問題がとても多いです。社会に統合できないことがひきこもりにつながりやすく、圧倒的に低所得者、貧困層の家庭で起きることが多いです。私が訪問を続けている方たちも、フランスと聞いてイメージされるような町並みとはかけ離れたエレベーターのない寂れた公団住宅に住み、インターネットやゲームに張り付いていることがほとんどです。中流以上の家庭であることが多い日本の状況とは違いますね。

 年齢層も日本より上です。それは、フランスでも研究されてきた不登校問題と高齢者の「ディオゲネス症候群」(日本でいう「ゴミ屋敷」問題)の間の世代に起きる問題として、日本から新たな概念がもたらされ、広がったことが理由の一つでしょう。既にひきこもっている期間が20、30年となっている人も結構います。公的な補助をもらうなど、生活面の改善は必要です。フランス国内に180万人程のニートがいると主張している専門家もいて、その大半がひきこもりになっている可能性も考えられ、今後は国として対策を考える必要が出てくるかもしれません。

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