古橋忠晃さん(撮影/金城珠代)
古橋忠晃さん(撮影/金城珠代)
古橋さん(右から3人目)とストラスブール大学病院セクターの訪問医療チーム(本人提供)
古橋さん(右から3人目)とストラスブール大学病院セクターの訪問医療チーム(本人提供)

 8050問題が注目を集め、事件の背景として報じられることもある日本のひきこもり問題。同じひきこもりでもフランスでひきこもっている人たちは、メディアに登場したり、講演会で将来の夢を語ったりすることが多いという。その違いは何なのか。3年前に現地でやひきこもり専門窓口を立ち上げ、現地の医療チームと訪問診療にも関わっている日本人の精神科医、名古屋大学学生支援センターの古橋忠晃さん(47)に聞いた。

【画像】フランスの訪問医療チーム

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 日本では、ひきこもりという言葉に、暗いイメージが付きまといます。親を亡くした後の生活をどうするかという8050問題もあり、明るい未来を描いている人のほうがまれでしょう。国内には100万人以上いるとされ、その規模の大きさからも医療機関や福祉施設が関わって社会復帰を促す「支援」が必要だとされています。しかし、ひきこもりの人たちのなかには手を差し伸べる人に対して「支援臭がする」と嫌う人もいるくらいです。そこがかみ合わないことが、日本のひきこもり問題の大きな課題です。

 しかし、フランスではひきこもりに日本のような暗いイメージはありません。講演会や市民講座に呼ばれて話していると、本人がフロアから発言することもあります。ある男性は「5年ぐらいひきこもって、家でゲームをしています。いつかは教師になりたいのですが、いつ社会に出るのが一番望ましいか考えています」と話しました。メディアで「Je suis Hikikomori.(私はひきこもりです)」と語る人もいます。

 日本ではひきこもり最中の人が講演会に来ることはあまりないですし、マスコミに出ることもありません。

 一方、フランスでは家族が将来を心配することはありますが、本人の生き方として肯定的にとらえ、そこから何かポジティブなものを見いだそうと考える傾向があります。その違いに、当初はすごく衝撃を受けました。

■面会を拒絶されることがない

 フランスの訪問診療では日本のように拒絶されたり、会うのに苦労することは全くありません。渡仏のたびに毎週会って1時間ほど話す現地のひきこもりは10人以上いますが、初対面のときからすんなりと受け入れてくれました。国や地域によって、家族制度や個人主義的な考え方がどの程度強いのかが違い、その影響もあります。

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買い物はウーバーイーツ フランスでの日常