櫻井:フランスの鉄道にも柵はありますが、動物よけのための背の低いものです。乗り越えようと思えば越えられるし、レンズも出せるくらいの高さです。つまり、鉄道に対する文化の違い、成熟度の違いだと思います。たとえば「瑞風」や「ななつ星」などスペシャルな列車を撮るときは僕も必死ですが、やっぱり撮った後には「ああ、素晴らしい車両だったなあ」と感動します。でも周囲を見ると、ほとんどの人が無言で立ち去ってしまう。車で撮影に来ている人なんて、次の撮影現場までダッシュで向かっている。鉄道に対して、何の感動もないの?と思ってしまいます。

鳥塚:車で来る人は(列車の)追っかけで必死ですから。

――櫻井さんは、2年前の『アサヒカメラ』の取材に「悪質なことをするのはだいたい車で来る人」と答えています。その印象は変わりませんか。

櫻井:変わりません。地方の撮影スポットに車で来る人の多くは、公道に駐車をします。まず、これだけでも迷惑行為です。それから、車に大きな三脚や機材を積んで運び、場所を占領する。たまに沿線の木を切るなどの不届き者もいますが、のこぎりや斧を持って電車に乗る人はいません。車で来るからこそ、そんな荷物が運べるのです。僕は電車で移動するし、撮影では三脚も使いません。なぜなら、鉄道撮影で使える1人分のスペースは自分の足を広げた分だけ、という考えだからです。鉄道は切符1枚につき、使える座席は1つだけです。いくら切符を買っても、勝手に2人分、3人分を使う権利はないのです。そもそも、この人たちはその地域の鉄道に1円も落としていないわけです。北海道や九州で東京、大阪ナンバーに乗っている撮り鉄を見ると、僕ですら腹が立ちます。現地の鉄道員の方はもっと腹立たしい気持ちになっているはずです。

鳥塚:はっきり言って、電車に乗らない撮り鉄は鉄道会社からすれば、お客さまではありません。そういう人に限って「俺たちは客だぞ」という顔をして、鉄道員に横柄な態度を取る。そういう人は来てもらわなくてもいいんです。ただ、私たち地域の鉄道会社は、直接的に鉄道運賃収入に結びつかなくても、その地域に人が来ることが、何らかの形で地域にプラスになると思っています。鉄道のファンが地域のファンになってくれて、いい写真を撮って広めてもらえれば、沿線の地元住民も喜びます。だからこそ、たとえ車で来る人でも排除はしません。その代わり、駐車をするなら地域の人に一声かけてほしいし、いい写真を撮って、地元住民とコミュニケーションを取ってほしい。そうすれば住民とのトラブルも減っていくはずです。

(取材・構成/アサヒカメラ編集部・作田裕史)

※『アサヒカメラ』2020年2月号より抜粋。『アサヒカメラ2月号』では撮り鉄のマナー向上改善策などについても、お互いの立場から熱く語っています。また、アサヒカメラの独自アンケートで判明した撮り鉄の「悪質マナー違反行為」の最新事例も掲載。全6ページにわたって詳報しています。