全く口もきかないという断絶ではなく、ただ「うっとうしい」と思っているぐらいなら、真剣に「話したいことがあるんだ」とアプローチすれば、やがて、会話は始まるんじゃないでしょうか。

 ハチローさんの文章だと、完全に断絶しているようには感じませんが、もし、そうだった場合は、母親を通じていろいろと情報を収集して(母親に「いじめていることをどう思うか」を穏やかに聞いてもらって)、対策を練る必要があります。場合によっては、I君の親御さんに会う必要もあるでしょう。

 ただ、断絶している場合は、いじめの解決と親子の関係回復という二重の困難がありますから、まずは、断絶に対してアプローチする方がいいと思います。

 どうですか、ハチローさん。

 大変なことですが、自分の子供のことで、親として全身全霊を込めて向き合うというのは、人生の中でそうないことだと思います。普通の親なら、人生の中で一回か二回、あるかないか。それが、今だということでしょう。

 とにかく、穏やかに冷静に、息子さんと話すことから始めてみませんか。そして、険しい道を歩き出すかどうかは、息子さんの状況次第だと思います。

 がんばれ、お父さん。

 追伸。いじめと闘うことは、そんなに大変なことなの?と驚いたでしょうか。ここで自分の本を出すのも気が引けるのですが、現代のいじめを題材に『青空に飛ぶ』(講談社文庫)という小説を書きました。子供達が、どういじめを巧妙に隠して、親や先生にばれないようにいじめを楽しんでいるのか、最新の事情を描写しました。参考になるかもしれないので、あげておきます。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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