インフルエンザウイルスに感染して発症するインフルエンザ。咽頭の痛みや鼻汁、咳などの上気道の炎症による症状、38度以上の高熱や頭痛、関節痛や筋肉痛、倦怠(けんたい)感などの全身の症状が特徴です。高齢者や免疫力の低下している人は肺炎を合併したり、小児では急性脳症を発症したりと、まれに重症化することがあり注意が必要です。

 産婦人科を研修中の時のことでした。12月中旬だったと思います。妊娠中期の妊婦さんが、40度の高熱と倦怠感を主訴に病院を受診されました。インフルエンザの流行期だったため、インフルエンザを疑い迅速検査を行ったところ、結果は「インフルエンザA型」。

 抗インフルエンザ薬を処方し、自宅安静していただくことになりましたが、「しんどくて辛いから、早くなんとかしてして!。」と、診察室のベッドの上でのたうちまわるように叫ばれているお姿は、私の脳裏に焼き付いています。

 このように、妊婦さんもインフルエンザに罹患(りかん)するのに加えて、妊娠中は、免疫系や心機能・呼吸機能の変化によって、インフルエンザに罹患すると症状の重症化や、重篤な合併症を引き起こす可能性が高くなることが分かっています。
 
 例えば、ニュージーランドの環境科学研究所のPrasad氏らは、妊婦娠中の女性は、インフルエンザに関連した入院の割合が、妊娠していない女性よりも3.4 倍高かったこと、期間別にみると、妊娠初期は2.5倍、 妊娠中期は3.9倍、妊娠後期は4.8 倍であったことを報告しています。

 こうしたインフルエンザによる重症化や合併症から守るためは、妊娠中のインフルエンザの予防接種が欠かせません。

 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)のThompson氏らは、インフルエンザの予防接種を受けることで、妊婦がインフルエンザで入院するリスクが40%減少したことが分かったと2019年に報告しました。このように、ワクチン接種により入院リスクを下げる、つまり重篤化するのを防いでくれるという訳です。

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母体へのワクチン接種の有効性